研究課題
福島原子力発電所事故由来の放射性セシウム (Cs) は樹木内に侵襲後、季節に応じた栄養元素の循環・再分配に組み込まれたため、樹木内に長期間留まっていたと考えられた。今後起こり得る類似の事故に対して正確なリスク評価を行うためには、樹木内のセシウム動態の全体像を理解する必要がある。そこで本研究は、まず半減期の長いCs-137 (30.1年) を用いて四季それぞれのセシウム動態の静的データを収集する。次に半減期の短いCs-127 (6.25 時間) を用いて、各季節における輸送速度や優先してセシウムが再分配される器官等、セシウム動態の季節による変化の詳細を観察する。2023年度上期は高崎研サイクロトロン加速器の運営方針により、加速器が稼働しなかったため実験することができなかった。2023年度下期では稼働に合わせて秋条件のポプラを準備したが、秋条件に適応したポプラを作成できなかった。昨年度は光量不足により生育不良を引き起こしたが、今回は自然光の温室で栽培を試みたため、補光は十分だったが日長不足で馴化ストレスに耐えることができなかった。一方、ポプラを対象にした本実験系は他の樹木の元素動態解析に応用できることから、リンゴ樹体内のセシウム動態解析を試みた。春を模擬した生育環境で育てたリンゴ果樹を供試したところ、新芽と主茎の双方向へ移行するCs-127を可視化することに成功し、樹体内を流れるセシウムは新芽をつけた若い器官に向かって優先的に運ばれていることを見出した。この結果は、野外の植物において放射性セシウムが若い器官に運ばれる傾向にあることを示唆したこれまでフィールド調査結果と一致するものであった。以上により、実験室スケールの本実験技術が野外にある果樹のセシウム動態予測に有用であることを示した。
すべて 2023
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Applied Radiation and Isotopes
巻: 198 ページ: 110859~110859
10.1016/j.apradiso.2023.110859