洋上風力発電の導入がもたらす経済的負荷の評価ツールを開発するため、「海面漁業生産統計調査」や「国勢調査」をはじめとする政府統計・公開データベースから8種類のデータを取得し、経済的負荷の評価に用いるデータセットを構築した。同データセットに合成コントロール法 (SCM: synthetic control method) を応用することで、洋上風力発電の導入が地元市町村の漁業生産量や一人当たり課税所得に与える因果効果を測定するフレームワークを確立した。 同フレームワークを応用した結果、実証目的で導入された国内の洋上風力発電は、統計的に検出できる影響を漁業にもたらさないことが示された。漁業生産量を漁法別・魚種別に評価しても同様の結果が得られた。また、一人当たり課税所得への影響についても、正の効果は統計的に検出されなかった。以上の研究成果をまとめた論文は英文学術誌Environmental and Resource Economicsに掲載された。 洋上風力発電の導入による漁業への負荷に関する定量的な評価が不足すると、導入地域の漁業者等の反発を招き、洋上風力発電の大量導入の停滞へとつながる恐れがある。しかし、洋上風力に対する期待が膨らむ中、漁業の負荷は評価されてこなかった。本研究は、洋上風力発電がもたらす漁業への負荷を定量的に評価した最初の研究となる。ただし、洋上風力発電を大規模化した際の影響や長期的な影響の評価が課題として残されている。
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