研究課題/領域番号 |
21KK0007
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
大橋 毅彦 関西学院大学, 文学部, 教授 (60223921)
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研究分担者 |
石川 巧 立教大学, 文学部, 教授 (60253176)
中村 みどり 早稲田大学, 商学学術院, 教授 (30434351)
木田 隆文 奈良大学, 文学部, 教授 (80440882)
多田 蔵人 国文学研究資料館, 研究部, 准教授 (70757608)
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研究期間 (年度) |
2021-10-07 – 2026-03-31
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キーワード | 中国国家図書館 / 外地文学 / 文化交渉 / 日中文学資料 / 日本語文学 / 日本語雑誌 / 上海図書館 |
研究実績の概要 |
研究期間の中間期に入った令和5年度の研究活動中、中国及び日本在住の8名の研究協力者も含めて全員で取り組んだのは、2024年3月に奈良大学で開催した国際シンポジウム「戦前戦中における日本文化人の大陸表象とそのひろがり―絵画・書簡・新聞―」である。本共同研究が調査対象としてきているのは、主として戦時下の中国大陸で刊行された日本語出版物であるが、このシンポジウムではさらに俎上に上せるものを文字テクストのみならず、絵画や版画といった美術の領域にも広げ、また文字資料の側においても書簡というジャンルや北京・上海以外の地域で発行された新聞を取り上げるなどして、今後の研究活動の可能性が随所において確かめられるイベントとなった。 また、このシンポジウムにあってもう一つ特筆すべきことを挙げるなら、それはプログラムの中心に据えた4本の研究発表のすべてを、研究協力者として名を列ねている中国の若手研究者たちが行ったことである。4人の報告は、日本国内では未見の資料も扱うなどしていずれも意欲的かつ新たな問題提起を含むものであり、さらに開催形態としてハイブリッド方式をとったところ、オンラインの方には中国各地から多くの方が参加され、名実ともに国際シンポジウムとしての成果を挙げることができた。 なお、会場となった奈良大学の博物館では、シンポジウム当日も挟んで2024年1月22日から3月23日まで企画展「幻の大陸日本語文学―池田克己とその時代Ⅱ」が開催されたが、本共同研究を深化させる役割を持つこの企画を推し進める上での中心となったのは研究分担者の木田隆文である。詳細は「研究発表」の項に譲るが、この企画展と連動する形での単著も、木田は刊行している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本共同研究の当初の活動計画の柱に据えていた中国と米国における資料調査・収集・整理のうち、米国議会図書館での作業は当初の予算において渡航費、滞在費等の占めていた割合が令和5年度になって相当膨らんだため中止せざるを得なかったが、その点を補って余りある調査研究の実績を積み上げることができたと判断、区分(2)の評価を下した。以下、判断根拠を3点に分けて記す。 その1.北京・上海に加えて、その周辺都市、地域における日本語出版物の収集整理に基づく研究成果を挙げることができた。具体的には天津の邦字新聞、武漢の文芸文化関連諸雑誌など、従来の研究では手薄であった地域に調査の範囲を広げることができた。 その2.研究対象としてのテクストの種類や範囲を、新聞と雑誌、あるいは日本語の文学作品以外のものにも拡大することができた。具体的には絵画や版画を本業とした美術家たちの活動、さらにまた日記・書簡・翻訳作業といった言表行為にも目を向け、それらが持つ問題系を明らかにし得た。 その3.研究課題には「戦時下」という言葉を用いたが、そこにはそれがどのようにして「戦前」ならびに「戦後」と繋がりを持つかについて考察することも含意されている。令和5年度は、その点においても魯迅という存在や、旧中日文化研究所が所蔵する戦後占領期の資料を活用しての研究報告や論文発表が複数のメンバーによって行われた。
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今後の研究の推進方策 |
在華日本語雑誌及び日本語新聞研究を引き続き行っていくが、調査対象地域としてこれまで実施してきている北京・上海・天津・武漢のほかに青島と広州を加えていく。 これまで視野に入れてきた戦時下中国で出版された日本語の文献資料の周辺には、それらと様々な形でもって切り結ぶ中国語の新聞・雑誌メディアが多数存在しているが、この方面への切り込みがまだ十分に図られていない。中国側研究協力者の力も借りて、その作業を意識的に取り込んでいく。 「現在までの進捗状況」の箇所で記したように、研究協力者も含む本共同研究参加メンバーの問題関心は、人物・ジャンル・時代・場所などいずれをとってみても、共同研究の全体的なコンセプトを踏まえつつも、個々のレベルで見ていくなら多様な展開をとりつつある。その点を残り2年間の研究期間内で可能なかぎり掘り下げていくためには、さらなる資料の探査と収集が図られねばならないが、各自の研究テーマに即してみるとそのかなりの部分は中国での調査でカバーし得ると判断される。よって、当初の計画に挙げていた米国議会図書館への研究出張は実施せず、いま述べた形での研究活動の充実化を図っていく。 また、2024年度中には本共同研究の研究成果を最終的にどのようにまとめていくかについての方針を固めておく必要がある。そのための検討会や、共通テーマを設けての勉強会などを定期的に行っていきながら、それとの連動性も念頭に置いての、本共同研究開始以降通算3回目の国際シンポジウムを立教大学にて開催する。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和5年度の海外調査は、天津・北京方面への調査のみ実施できた。一方、奈良大学で開催した国際シンポジウムには中国側研究協力者を全員招聘するにあたって航空費、宿泊費、謝金を支出したが、外国旅費として当初計画していた米国ならびに上海方面への調査を見合わせたため、次年度使用額が生じた。 令和6年度は、最終年度(令和7年度)の使用額がかなり限定されるので、この年度中に本共同研究に関してさらに入手が必要になった書籍や文献資料の大半を揃えておく必要がある。ただし、その多寡は分担者の取り組む個別テーマによって違いがあるし、一方では中国での現地調査が優先されるケースも生じてくるであろうから、そのための支出ができるようにしておく必要がある。 また、第3回目の国際シンポジウムを日本国内で実施する予定もあるので、中国側研究協力者を招聘するにあたっての予算も組んでおく必要がある。以上の3点を中心にして、次年度使用額と令和6年度として請求する助成金とを合わせた額を使用する。
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備考 |
石川巧「出版人としての鷲尾よし子1~21」(連載評論『秋田魁新報』2023年12月2日~2024年4月27日)、WEB増補版『日本近代文学大事典』(日本近代文学館)編集委員、中村みどり「内なる彷徨ときらめき」(山口早苗著『日本占領期上海の文学とメディア』書評、『図書新聞』3618号)、木田隆文「上海文学」・大橋毅彦「黄鳥」(「日本近代文学大事典増補改訂デジタル版」第2期の項目執筆。2024年)。
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