研究課題
我々は,NASAの観測ロケットを用いた国際共同実験CIBER: Cosmic Infrared Background Experiment により近赤外域の銀河系外背景放射を観測した結果,その強度と空間的ゆらぎが通常銀河の積算光から超過していることを発見した.この超過は未知天体の存在を示唆しており,宇宙初期やダークハロー浮遊星が起源の候補である.我々はCIBERより一桁高い感度で超過原因を特定しうる新たなロケット実験CIBER-2を計画し2021年6月に第1回の打上げに成功した.今後は実験終了後にパラシュート回収した観測装置を次回実験に再利用するサイクルを複数回行い背景放射の超過問題を解明する.2021年度は,本研究のロケット実験のとりまとめを行うロチェスター工科大学(RIT)において,パラシュート回収した観測装置を外観検査したのち,観測装置を部品に分解し問題のあった箇所や破損した部品については再製作を行った.光学系部品の検査と再製作に関しては,これを担当する日本チームが現地へ出向いて作業を行う予定であったが,思いのほかCOVID-19の流行が収まらなかったことから渡航を断念した.しかし同作業は現地のRITチームと遠隔協働することで必要最小限の作業は進めることが可能となり,その検査結果と観測データの分析結果を合わせて必要性が認識された光学フィルターの再製作を本経費で実施することにした.ただし,光学フィルターの納品時期が2022年度までかかることが判明したため,2021年度予算を繰越し2022年度予算として使用することにした.
2: おおむね順調に進展している
第1回のロケット打上げ後に予定していたロチェスター工科大学における観測装置の検査および改修作業は,COVID-19の影響により日本チームの現地作業ができなくなったが,現地メンバーと密接に連携することでおおむね予定通りに作業を進めることができた.また第1回の実験で破損が確認された液体窒素タンク配管の再製作を速やかに行った.第1回の打上げで得られた観測データを解析した結果,飛行中にロケット筐体からの熱放射とみられる環境放射による強い迷光信号が確認され,観測装置の検査作業中にその原因と考えられる不備を見出すことができた.次回実験にむけてこの迷光を低減するため光学フィルターの追加や光学素子の全面黒色塗装の必要性が認識され,これを行うための改修部品の製作の手配を迅速に進めることができた.ただし,日本チームが開発を担当した光学系の詳細な検査と分解および再組立てなどについては日本チームの現地での作業が必須であり,その実施は2022年度に延期した.
本研究における第2回のロケット打上げは現在のところ2023年1月に設定しており,その実施にむけて観測装置を準備することが当面の目標である.すでに述べたように,パラシュート回収した観測装置の分解および検査はロチェスター工科大学のチームと遠隔連携することでひと通り終えることができたが,日本チームが開発を担当した光学系のより詳細な分解・検査および再組立てについては,日本チームによる現地作業が必須と考えている.2021年度はCOVID-19の影響が続き渡航が難しい状況であったが,渡航条件などが緩和された2022年度には渡航する予定をたてている.渡航するメンバーは日本国内で再製作する光学フィルターほかの部品を観測装置に組込み,それによる性能改善を光学試験により確認したうえで第2回打上げの準備を進める.また今後さらに第1回打上げでの観測データの解析を進め科学成果をあげるだけでなく,第2回の観測計画や打上げ前試験の項目出しを行っていく.強い迷光成分については前述したようなフィルターによる低減などの処置を行うだけでなく,観測データとシミュレーションを比較することで原因特定するとともに根本から迷光を無くすことを目指す.第2回の打上げを成功させ十分な科学成果を得たのち,2024年に予定する第3回の打上げではより完成度の高い装置の状態で観測結果の検証を行う.
本研究の目的であるロケット搭載装置の改良のために光学フィルタの製作が必要となったが,納品時期が2022年になることが判明したことから予算の一部を次年度へ繰越すことにした.また,第1回実験の際に破損した観測装置の一部を2021年度予算で再製作したが,COVID-19の影響が継続し米国への渡航が困難となったことからその旅費も繰越した.2022年度に繰越した予算は光学フィルタの製作費および米国渡航費に充てる予定である.
すべて 2022 2021 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (4件) 備考 (2件)
The Astrophysical Journal
巻: 926 ページ: 6~6
10.3847/1538-4357/ac416f
巻: 926 ページ: 133~133
10.3847/1538-4357/ac44ff
巻: 919 ページ: 69~69
10.3847/1538-4357/ac0f5b
https://sci-tech.ksc.kwansei.ac.jp/~matsuura/
https://www.kwansei.ac.jp/s_science/d_pa/research_project