研究実績の概要 |
はやぶさ2初期分析化学班として、リュウグウ試料および関連する隕石の化学分析および同位体分析を実施した。初期分析化学チームに配分された試料(~30 mg x 2試料)を酸で分解し、四重極型ICP-MS(X-series2)を用いて54種類の元素存在度を測定した。次に、研究代表者が開発したマルチ元素分離技術を適用して、約20種類の元素を分離抽出した。分離した各フラクションからSr, Pb, Ti, Cr(A群元素)を精製し、それらの同位体測定を行った。また、同時に抽出した元素の中で、存在度がやや低いB群元素(Zr, Mo, Ru, Pd, Nd, Sm, Gd, Pt)に関しては、分離した試料を海外研究協力者が所属するメリーランド大学、カーネギー研究所、およびスイス連邦工科大学チューリッヒ校にそれぞれに送付し、同位体分析を開始した。 また、2022年2月に導入されたトリプル四重極型ICP-MS(iCAP-TQ)を用いて、隕石試料ならびにリュウグウの元素存在度分析の開発を開始した。まず取り組んだのは、消滅核種53Mnを用いた53Mn-53Cr年代測定法において必要となる55Mn/52Cr比を精密に測定する手法の開発である。複数の測定モードを試した結果、ガス反応セルを用いないモード(SQ-non gas mode)では分子イオンの干渉により、正しい結果が得られないことが判明した。一方、Heガスを用いたKEDモードで干渉分子イオンを軽減させて測定すると、最も高精度・高確度なMn/Cr比を与えることが分かった。この手法を用いて、実際に隕石およびリュウグウ試料のMn/Cr比を誤差0.5%で測定することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
トリプル四重極ICP-MSの導入および初期立ち上げは問題なく完了した。また、装置を用いて隕石およびリュウグウのMn/Crを高精度で測定することができた。これらはいずれも計画通りであり、滞りなく実施できた。また、隕石およびリュウグウのA群元素(Sr, Pb, Ti, Cr)の同位体分析も実施し、リュウグウの起源に関する重要な知見を得た。更に、本課題のカギとなる海外研究機関3か所との共同研究に関しても、研究代表者が分離したB群元素をそれぞれの機関に郵送し、分析を開始した。当初、海外研究機関での分析は2022年度に開始する計画であったが、新型コロナウイルスの影響もあり、予定を前倒しした。その意味で本研究課題は当初の計画以上に進展しているといえる。
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