研究課題/領域番号 |
21KK0060
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
川本 竜彦 静岡大学, 理学部, 教授 (00303800)
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研究分担者 |
谷内 元 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 地質調査総合センター, 研究員 (00913956)
田阪 美樹 静岡大学, 理学部, 准教授 (80772243)
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研究期間 (年度) |
2021-10-07 – 2026-03-31
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キーワード | 低速拡大海嶺 / 高速拡大海嶺 / 多世代炭酸塩脈 / オフィカーボネイト / オフィオライト / オマーン / 西アルプス |
研究実績の概要 |
2022年8月にフランスアルプスで調査したオフィカーボネイトの岩石薄片を観察した。研究した地質体と岩石は、低速拡大海嶺起源の西アルプスのシュナイエとラゴネロオフィオライトの蛇紋岩に形成された多世代の炭酸塩脈とオフィカーボネートである。これらの炭酸塩脈やオフィカーボネートの炭酸塩鉱物中には多数の主に水からなる流体包有物が取り込まれている。流体包有物に対してマイクロサーモメトリーを実施し、形成した流体の化学組成と温度に制約を与えた。また、これらを2021-2年度に調査した高速拡大海嶺起源とされるオマーンオフィオライトでの多世代の炭酸塩脈の研究結果と比較した。 流体包有物の均質化温度と先行研究によって明らかにされている酸素同位体比による推定温度を比較すると、西アルプスのシュナイエオフィオライトでは両者が整合的である。一方、オマーンオフィオライトの流体包有物の均質化温度は酸素同位体が記録する平衡温度よりも約200℃も高い。このことは、低速拡大海嶺起源である西アルプスのシュナイエオフィオライトの形成場が海洋底へ露出した海洋コアコンプレックスであるのに対して、高速拡大海嶺起源のオマーンオフィオライトはマントルの上に厚さ5 kmの海洋地殻が覆い海洋底とマントルの間に距離があることに起因する。オマーンオフィオライトの炭酸塩脈を作った海水は海洋地殻を通過する間に岩石との間で同位体平衡に近づき、より高温状態で炭酸塩脈を形成したと提案する。先行研究では、海水と同じ同位体比を持つと仮定して温度を計算していたが、炭酸塩脈を形成した流体の酸素同位体比は変化していたと推論する。 以上の解析に加えて、2023年9月にイタリアアルプスのモンヴィソとランツォ地域の地質調査と岩石試料採取を行い岩石薄片を作成した。2024年度は、これらの流体包有物の観察を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年、2023年とフランス人研究者のサポートにより、西アルプスに露出するオフィオライトやカンラン岩体の地質を学ぶことができた。また、さまざまな温度圧力条件におかれたと考えられるオフィカーボネイトの岩石試料を採取した。2022年に採取した岩石の解析は半分まで2023年度に完了した。その結果は、西アルプスのオフィオライトは低速拡大海嶺と考えられており、2022年度までに我々が研究していた高速拡大海嶺のオマーンオフィオライトとは異なる。西アルプスでもオマーンでも、大まかに見ると海洋プレートの水和や炭酸塩化に海水が関係することは確かなようだ。2022年度に採取し解析できていない残る半分の岩石試料と2023年度に採取した岩石試料の解析を2024年度に行う計画で、研究は順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
2022年8月に調査したフランスアルプスで採取したオフィカーボネイトの岩石試料の残りと、2023年9月にイタリアアルプスのモンヴィソとランツォ地域の岩石の解析を行いたい。いずれも岩石薄片になっており、準備は整っている。これらの岩石試料の解析が終了する前に、新たな試料を採取することは避けたい。これらの岩石の解析は、低速拡大海嶺と高速拡大海嶺の差を明確にするほか、海洋底で炭酸塩化したものがプレートの沈み込みによって動的再結晶作用を受けた場合、どのような流体が関与したのかを明確にする。後者は特に本研究計画の鍵になる。本研究が完成すれば、中央海嶺から海洋底をへて沈み込み帯に至るまでの海洋プレートの水和と炭酸塩化の実態を理解することが可能になる。
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次年度使用額が生じた理由 |
地質調査に同行する予定であった学生の一人が、都合により調査できなくなった。やむをえず、2024年度以降に繰り越した。
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