研究課題/領域番号 |
21KK0075
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
山中 浩明 東京工業大学, 環境・社会理工学院, 教授 (00212291)
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研究分担者 |
守田 正志 横浜国立大学, 大学院都市イノベーション研究院, 准教授 (90532820)
三宅 弘恵 東京大学, 地震研究所, 准教授 (90401265)
佐藤 大樹 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 准教授 (40447561)
笠松 健太郎 鹿島建設株式会社(技術研究所), 都市防災・風環境グループ, 主任研究員 (90443704)
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研究期間 (年度) |
2021-10-07 – 2025-03-31
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キーワード | 地震ハザード / 強震動 / 地盤増幅 / 地震被害 / トルコ / ブルサ / 歴史建築保全 / 歴史地震 |
研究実績の概要 |
本研究では,地震・地盤系,構造工学系,歴史系の研究者が協働して,トルコの地震多発地帯で歴史建築の保全のための地震動評価の新しい枠組みを提案することを目的としている。具体的には、オスマン帝国の初代の首都で歴史建築物が存在しているトルコ北西部のブルサ地域を対象とした調査研究を実施している。この地域は,北アナトリア断層帯に近いために多くの被害地震が発生している。 今年度は、ブルサ地域で1855年発生したM7.1の地震による建物被害に関する文献および資料を調査し,位置を確認できた建物の被害を5段階に分類し、建物の種別毎の空間的な分布を明らかにし、被害の偏る地区があることを明らかにした。歴史都市部中心部に位置するウル・ジャミイとその周辺の商業地区でミナレット(モスクに付属する塔)を中心に被害が特に大きく、次いで、城郭内での被害が大きかった。一方、市街を南西から北東に向けて流れるギョク川周辺ではあまり被害はみられなかった。これらの被害分布を確認するために、現地での建物調査も実施した。 昨年度の研究で抽出した各強震観測点での地盤増幅特性の逆解析を行い、浅部深部統合地盤の1次元S波速度構造とQ値のモデルを推定した。低周波数帯域で増幅率が大きいブルサ平野中央部では,Vs2.15km/sの地震基盤深度は400m 程度であり、浅部地盤も厚く,低S波速度の表層が存在していることを明らかにした。一方、高周波数帯域でのみ増幅率が大きく盆地端部では、地震基盤深度が250m 以下となっている。これらの統合地盤モデルは、強震動評価に資するものである。さらに、強震観測点以外の地点でも地盤モデルを推定するために、上記の地震被害を受けた建物の近傍で微動探査を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度は、1855年のブルサ地震の際のブルサ中心部での歴史的建築物の被害に関する文献整理を行い、文献資料から主要な建物の位置と被害程度を調べた。さらに、現存する建物の現地調査も行い、建物被害データベースを作成した。それに基づいて、建物被害の分類を行い、さらにその空間的分布を明らかにすることができた。これらは、地震動推定の基礎となる非常に有益な情報である。また、2021年度に整理した地盤増幅特性から地盤モデルの推定も行うことができた。 上記の日本側の研究成果を議論するために、国内および2国間での研究会を実施した。その結果を踏まえて、2022年11月にブルサにおいて現地調査を実施することとなった。現地調査では、上記の地震で被害を受けた建物の調査および同建物の敷地での地盤探査を実施した。この現地調査には、トルコ側の協力者も参加した。 2023年2月には、トルコ南東部でM7.8の地震が発生し、カフラマンマラッシュ県やハタイ県などで甚大な被害が生じた。これらの地震では歴史的な構造物も被害を受けており、その地震動特性を理解することは本研究でも重要であると考えられ、強震動特性や地盤増幅特性の分析を行った。さらに、トルコ側の研究協力者とメールおよびインターネット会議で意見交換を行い、トルコ側と共同で被災地の現地調査を行うこととなった。2023年3月には、トルコを訪問し、現地での微動観測や地震観測を行った。この地震は、1855年のブルサ地震と同様の内陸地震巨大地震であり、その地震動特性の解明は、1855年の地震による地震動の理解にも有益であると期待される。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、新型コロナウィルス感染症対策が緩和され、現地調査のためにトルコ渡航することができた。昨年度から実施していたインターネット形式の会議の開催が容易になり、現地調査の準備をスムーズに行うことができた。さらに、トルコ側協力者は、現地調査の許可を自治体から取得しており、現地での大きなトラブルもなく、無事に予定していた調査を終えることができた。このように両国の学術交流は非常に良好であった。現地において今後の調査の課題なども相談することができ、来年度の現地調査への期待は高いものである。また、本研究による学術交流は、2023年2月のトルコ南東部の地震の地震動特性と被害の解明にも大いに寄与しており、新しい研究のシーズとなり、今後の研究の発展も期待される。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍と2月に発生したトルコ南部の地震によって、2023年3月に予定していた調査等を2022年度内に実施することが難しくなった。そのために、次年度に行うこととした。
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