研究課題
日本及びニュージーランドは火山国で、火山防災研究への期待が大きい。水蒸気噴火は、現状ではその前兆を捉えることが困難である。これは、火山体に広がる熱水やガスの分布する構造やその時間変化が、地震や測地の観測から捉えることが難しいことによる。一方、比抵抗は熱水やガスの分布に敏感な物理量であるため、人工電磁場を用いることによって、熱水やガスの分布の時間変動を検知することができる。ニュージーランド国ワイマング地熱地域のインフェルノ火口湖は平均38日周期で湖面が10m上下し、水温も35℃(低水位時)から75℃(高水位時)まで変動を示すために、熱水系の変動を捉える実験には適したフィールドである。実際の観測に先立って、有限要素法コードを用いた順計算プログラムによって、送受信間距離や、比抵抗構造の概査データをもとに、水蒸気発生による薄い高比抵抗層の出現が捉えられる周波数帯域が、0.1~300Hzであることを確認した。今年度は実験観測用地に関わる許認可手続きから開始した。送信機は、ワイマング地熱地帯から1km程度離れた牧場に設置し、東西300m、南北250mのダイポールを2つを埋設した。GPSにシンクロナイズした任意波形創出装置から3Vppの電圧を出力し、それを80倍のパワーアンプを用いて電流ダイポールに4Appの電流を流すことができた。波形は、離散的な対数等間隔な周波数からなる。東西および南北のダイポールからは0.1Hzだけずれた波を20秒繰り返しで送信することによって、テンソル応答を取得することができる。受信機については、インフェルノクレータの周辺に10ヶ所で展開し、各観測点では水平電場2成分を2400Hzでサンプリングしている。今年度末に、送信点および受信点が配置され、本格的な観測の準備が整った。年度末より送受信観測を開始している。送信信号については携帯電話回線でモニターしている。
3: やや遅れている
初年度よりコロナ禍のために、海外渡航が制限されていたため、現地観測の準備が遅れていた。今年度から、実験のための用地交渉を開始したが、許認可手続きに予想以上に時間がかかり、電流送信用の観測小屋とアンテナケーブルの埋設に関わる役務の実施が遅れた。しかしながら本格的な連続観測を年度末から開始することができている。
ようやく観測システムが完成し、連続観測が開始されたので、火口湖の水位変動に関連した電場変動を捉えることが期待される。現地のGNS Science研究所の協力者であるGrant Caldwell氏と協力して、データ取得および解析を進める。さらに、詳細な地形を考慮した3次元比抵抗解析を進める。周期38日で水位および水温の変動が期待されるので、連続的に11月までデータを取得することができれば、比抵抗構造変動の数サイクルにわたる変動を解析することができる。さらに比抵抗構造から水蒸気の分布を求め、インフェルノ火口のダイナミクスに迫ることができ、将来的には噴火予測につなげることができる。
ニュージーランド国ワイマング地熱地帯において、今年度、送信局の小屋および送信電流ーダイポールアンテナの設置作業からなる役務を予定していた。役務の費用が予想より大きくなり、550万円程度が必要になったため、研究費を前倒し請求した。ところが、観測に借用する土地の許認可手続きが予想以上に遅れてしまい、役務の発注が遅れたために、役務作業の完成が翌年度(4月3日)となってしまった。このために書類上の支払いが翌年度に行われることになった。これが次年度に使用額を持ち越している主な原因である。
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