研究課題/領域番号 |
21KK0083
|
研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
小田 竜樹 金沢大学, 数物科学系, 教授 (30272941)
|
研究分担者 |
佐藤 和則 大阪大学, 工学研究科, 准教授 (60379097)
小幡 正雄 金沢大学, 数物科学系, 助教 (10803299)
|
研究期間 (年度) |
2021-10-07 – 2025-03-31
|
キーワード | 磁歪 / バリアント / スピン密度汎関数法 / 準粒子自己無撞着GW法(QSGW法) / ノンコリニア磁性 |
研究実績の概要 |
小さな磁場印加で大きな形状歪みを発現し、外部磁場によるアクチュエータ(駆動装置)等への応用が見込まれる磁気形状記憶合金(Ni-Mn-Ga系等)の記憶現象について、原子サイズでの機構解明を目標に、チェコ共和国実験研究グループとの国際共同研究や日本グループによる理論研究を進めている。 (1)Ni-Mn-Ga系で、ハバードモデルのUと密度汎関数法(DFT)を組み合わせた法(DFT+U法)、および電子局在性を高精度に考慮できるGW法(準粒子自己無撞着GW法:QSGW法)を用いて電子局在の効果を調べて議論した。DFT+U法でU値がある大きさのときに、いくつかのマルテンサイト相のバリアントの原子構造や弾性定数が実験値と理論計算値がおおよそ一致する結果が得られることが判明した。QSGW法での状態密度はDFT+U法で得られたものとよく似ていることも判明した。DFT+U法においては、マルテンサイト相の限定された実験データに合うようにU値を推定することができたということである。これは電子局在の効果が重要であることの証拠である。 (2)オーステナイト相と非変調マルテンサイト相(正方晶相)の電子状態をQSGW法で調べた。QSGW法で得られる電子状態は、オーステナイト相からマルテンサイト相へ相転移を特徴づけるバンド-ヤン-テラー効果を明確に証拠付けるものである。この他にもフェルミ準位(フェルミ面)の特徴を表す結果を得つつあり、令和4年度に最終的に判明するものと考えられる。このような電子状態は、依然としてDFT+U法では再現されていない。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本国際共同研究では、双晶面付近の数原子層または数十原子層を対象に、各種第一原理的電子状態計算を駆使して、原子・磁気構造を決定し、弾性歪・磁歪・磁気異方性による相互作用エネルギーを見積もり、マルテンサイト相間転移機構や磁区構造を明らかにするが、オーステナイト相からマルテンサイト相への相転移についての機構解明に関する研究が、論文発表等は令和4年度になる予定であるが、予想以上の進展があったと考えている。相互作用エネルギーを見積もりや磁区構造に関する研究については令和4年度に注力する課題である。相転移についての機構解明は、マルテンサイト相間転移機構の解明の進展につながるものである。全体的には、順調に進んでいると言ってよい。
|
今後の研究の推進方策 |
(1)双晶面における磁区境界において、3次元ベクトル型磁気構造と格子歪を同時導入して研究する。原子スピン磁気モーメント間の交換相互作用、原子軌道磁気モーメントや磁気異方性を扱い、双晶面の磁歪を調べる。電子相関を精度良く取り入れたGW計算を実施してマテリアルデザインに役立つ指針を獲得する。 (2)5種類の計算コードを駆使して、Ni2MnGaとそのMn濃度変調系Ni2Mn(1+x)Ga(1-x)に対して、次のような要素研究を行う。(2-A)双晶面を含む系において磁気異方性を明らかにする。(2-B)双晶面(または逆位相境界面)を含む系において、原子磁気モーメント間の交換相互作用の解析を行う。(2-C)双晶面に磁場印加して、電子・磁気構造の変化を調査する。 (P)双晶面の移動が、格子歪と磁気歪の協奏として発現することを示し、磁場印加や昇温により実現する可能性を示す。(Q)Mn濃度変調に対応する電子数変化による、双晶面のエネルギー安定性や移動容易性を明らかにする。(R)観測されるマルテンサイト相のエネルギー安定性を電子・磁気構造に基づいて明らかにする。双晶面を構築して、3次元ベクトル型磁気構造の電子状態計算等を実施する。その上でせん断応力下の歪、近接原子間の磁気的相互作用(Jij等)や磁気異方性(Ku等)を見積もる。 日本側若手長期滞在者[金沢大学研究分担者]は、カレル大学に滞在して、チェコで計算コードのチューニングに取り組み、理論計算を行い、ブルノ工科大学の研究者と議論を行う。実験データとの比較においてチェコ科学アカデミーの実験研究者と議論を行う。金沢大学若手研究者は、チェコ工科大と金沢大の博士課程二重学位制度学生と協力し、密度汎関数法を用いて弾性定数の見積もりと磁場印加下での電子状態の計算を推進する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
令和3年度の新型コロナ感染症対策により、研究協力者の大学院生(留学生)が入国できなかったため、研究人件費(研究謝金)を使用しないことになった。この代わりに大学院生(日本人)に研究人件費を支給したが支給期間が短くなった。また若手研究分担者が、チェコ共和国にて短期渡航して翌年度の共同研究の準備や計算コード開発の準備する計画であったが、新型コロナ感染症の緊急事態措置・まん延防止等重点措置により渡航時や帰国時でのホテル待機規制が学内業務を圧迫する可能性が生じたため、短期渡航を取りやめることになった。そのための未使用額が出た。 令和4年度には、若手研究分担者がチェコに予定通り長期出張する計画である。また当該の大学院生(留学生)がすでに渡日して研究協力してもらうことになっている。
|