研究課題/領域番号 |
21KK0084
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
西村 達也 金沢大学, 物質化学系, 准教授 (00436528)
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研究分担者 |
DAS SANDIP 金沢大学, ナノ生命科学研究所, 特任助教 (00873407) [辞退]
谷口 剛史 金沢大学, 薬学系, 助教 (60444204)
前田 勝浩 金沢大学, ナノ生命科学研究所, 教授 (90303669)
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研究期間 (年度) |
2021-10-07 – 2025-03-31
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キーワード | スピントロニクス / らせん高分子 / リビング重合 / ポリフェニルアセチレン / ポリジフェニルアセチレン |
研究実績の概要 |
技術の進歩によりスピントロニクスの研究が盛んに行われるようになった。スピン電子はスピン角運動量の自由度をもち、上向きと下向きの2種類存在する。それらは鏡像関係にあるため、キラルな化合物中を通り抜ける際に、どちらか一方のスピンが偏って移動する。これはキラル分子によるスピン偏極現象(CISS)効果として Naaman教授らによって報告された(Science, 2011)。この報告を突破点として、いくつかの生体高分子を用いる有機スピントロニクス研究が開始されている。一方向巻きのらせん状生体分子に対して電場を印加すると、一方のスピンが優先的に移動する。しかし、精密に分子設計された有機化合物を用いる研究はほとんど無く、CISS効果の全容解明には有機分子の多様化が必要である。有機物はスピン軌道相互作用が小さいため、スピン偏極素子の材料としては注目されてこなかったが、これは分子設計に大きな制限があったためであり、本研究ではこの問題を解決し有機スピン偏極素子の実用化を目指す。我々は最近、末端官能基化らせん高分子の精密合成法の開発に成功した。本共同研究では、我々が独自に開発したらせん高分子の精密合成法を用いて、スピン偏極を増幅する効果的な主鎖構造や機能部位の配列制御を見出し、CISS効果の全容解明のための基礎科学をCISS効果の提唱者でこの分野を牽引するNaaman教授と共同してキラルな有機分子によるスピン偏極効果の本質を理解し、新しい高スピン偏極有機デバイスの創製を目指す。2022年度は、末端に銅フタロシアニンを有するらせんポリマーおよび、ポリジフェニルアセチレンの単分子膜についてCISS効果の測定を試みた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度に2回イスラエルワイズマン研究所へ赴き、合成したらせん高分子の測定を行った。測定した高分子は金基板からブラシ状にはやしたらせん高分子、金属フタロシアニンを末端に入れたらせん高分子、シスシソイドらせん高分子、およびポリジフェニルアセチレン誘導体である。全てのポリマーについてわずかながらにスピン伝導度の違いがみられたが、残念ながら明確なCISS効果は測定出来なかった。これは、基板上に均一な高分子膜が形成しなかったこと、および、主鎖構造の電導度の低さが考えられた。そこで、より長い高分子を用いて、基板に対して平行に測定する計画を立て、高分子量合成に成功した。
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今後の研究の推進方策 |
得られた高分子鎖を用いてスピン伝導度の測定を行う。また、電導度の向上を目指し、主鎖のドーピング、および側鎖官能基の導入を試みる。PDPAについては、末端SHの導入に問題が生じたため、高分子反応を用いる検討を行う。具体的には末端Brに対し、カルボニル挿入反応を行い、そこへSHを持つ化合物をクリック反応によって導入する。また、ドーピングについては、酸化、および還元を用いて主鎖の共役結合へ導電性を付与する。側鎖官能基については、パイ共役の広い化合物をらせん状にならべ、測定を行う。それぞれのポリマーについて、金沢大学において4端子測定によって導電性を計測し、イスラエルワイズマン研究所にてスピン伝導度を測定する予定である。2023年度中に2回、訪問する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度に合成した高分子を測定したが、CISSの測定に問題を生じたため、追加合成を変更し、高分子量体の合成に注力したため、共同研究者がワイズマン研究所を訪問・測定することが出来なかった。2023年に共同研究者と共に訪問するため、その旅費を次年度に繰り越した。
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