研究課題
カーボンナノチューブ薄膜透明電極を用いた有機薄膜太陽電池の大面積化の研究として,セミモジュールの作製に取り組んだ.金属裏面電極をカーボンナノチューブ薄膜透明電極に置き換え,37 mm角のセミモジュールの作製に成功した.エネルギー変換効率は,代表的な発電材料を用い約3%であった.今後は高効率な最新の発電材料を用いることにより,変換効率をさらに高めることができる.このセミモジュールは,インジウムスズ酸化物透明電極と,裏面にカーボンナノチューブ薄膜透明電極を用いた透光性のある有機薄膜太陽電池であり,しかも両面からの発電が可能である.そのような特徴の太陽電池としては,まずは満足のいく変換効率だと考えている.このセミモジュールについて,フレキシブル基板を用いたフレキシブルなセミモジュールの作製に成功した.特筆すべき点として,金属裏面電極をカーボンナノチューブ薄膜透明電極に代えることにより,耐久性が劇的に向上することが確認された.逆型有機薄膜太陽電池のセミモジュールでは,裏面電極として銀が用いられるが,銀は空気中の酸素で酸化され,酸化されて生成するAg+は,有機発電層材料を酸化し,寿命が不十分であった.それに対し,カーボンナノチューブ薄膜透明電極は酸化されず,むしろ高分子酸の溶液のスプレーにより積極的に酸化すると,カーボンナノチューブに正孔が注入され,腐食されないどころか変換効率の向上がみられた.また,10 cm角のセミモジュール,フレキシブルなセミモジュールの作製にも成功した.作製から半年後でも,封止なしでいまだに発電する画期的な有機系太陽電池となった.また,挑戦的な課題として,カーボンナノチューブ薄膜透明電極のnドープに取り組んだ.ホスフィンやアミンによりnドープし,さらにフラーレン誘導体により保護膜を作ることにより,発電層から電子を捕集する側の電極として用いることを可能にした.
1: 当初の計画以上に進展している
カーボンナノチューブ薄膜透明電極を用いた有機薄膜太陽電池セミモジュール,および,nドープにより電子を捕集する側でもカーボンナノチューブ薄膜透明電極の使用を可能にしたことについて,それぞれ特許を申請した.カーボンナノチューブ薄膜を透明電極として用いることにより,耐久性が格段に向上することが確認された.現状のペロブスカイト太陽電池では耐久性が最大の問題となっており,大面積化すると裏面電極に金や銀などの裏面電極が使えず,カーボン系の電極を使う流れが出てきている.そこで本研究のカーボンナノチューブ薄膜透明電極は,ゲームチェンジャー的な要素となり得ると考えている.すなわち,カーボンナノチューブを用いているがゆえの透明性と高い伝導性があり,転写により貼り付けることができ,疎水性によりペロブスカイト層を保護する.金裏面電極のように金の拡散がなく,銀のようにペロブスカイト材料に含まれるヨウ素により酸化されない.それどころか,ヨウ素酸化による正孔の注入により,カーボンナノチューブの導電性が向上する.また,nドープはカーボンナノチューブ薄膜透明電極の鍵技術の一つとなり,それを達成できたことも大きい.
有機薄膜太陽電池については,性能の高い発電材料の使用により,さらに変換効率を向上する.また,10 cm角両面発電セミモジュールを数多く作製し,社会実装の試験をする.カーボンナノチューブ薄膜透明電極の作製方法として,浮遊触媒を用いた化学気相成長法(ドライプロセス)のみならず,ウェットプロセスであるスプレー塗布,バーコート塗工,インクジェット印刷も検討する.いずれも国内の高い技術を適用でき,初期評価として既に良い感触を得ている.また,カーボンナノチューブ薄膜透明電極を用いたペロブスカイト太陽電池のセミモジュールの作製と大面積化にも注力する.上部電極にも下部電極にも用いられることを確認しているが,特に逆型ペロブスカイト太陽電池の上部電極(カソード)として使う研究に注力する.そのために理論研究も含めたカーボンナノチューブ薄膜のnドープの研究を進める.順型ペロブスカイト太陽電池の上部電極(アノード)には問題無く使用できることを確認している.また,シリコン/ペロブスカイトタンデム型太陽電池の上部電極としてカーボンナノチューブ薄膜透明電極を用いる研究を開始しており,これに注力する.アールト大学(フィンランド)のエスコ・カウピネン教授の研究室に滞在し,最新の導電性の高いカーボンナノチューブ薄膜透明電極を作製し,研究を加速する.
Haosheng Lin助教のフィンランド滞在が予定されていたが,退職,帰国し,本研究からも離脱したため,次年度使用額が生じた.なお,次年度使用額は約38万円であり,次年度で有効に活用する.
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