研究課題/領域番号 |
21KK0091
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
奥野 将成 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (00719065)
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研究分担者 |
成田 明光 沖縄科学技術大学院大学, 有機・炭素ナノ材料ユニット, 准教授 (30870133)
大戸 達彦 名古屋大学, 工学研究科, 准教授 (90717761)
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研究期間 (年度) |
2021-10-07 – 2025-03-31
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キーワード | グラフェンナノリボン / ラマン分光 / 量子化学計算 |
研究実績の概要 |
2022年度は、グラフェンナノリボン(GNR)の基板上での合成検討を進める一方で、新奇GNRの溶液合成を志向した多環化合物の合成およびそのラマン分光測定、理論的検討を行った。非常に小さいバンドギャップが理論的に予測されているGNRの前駆体構造として、6,6'-ビインデノ[1,2-b]アントラセン(BIA)を検討したところ、高いジラジカル性が示唆された。BIAの電子状態に関する高精度第一原理計算を行なったところ、開殻一重項状態と開殻三重項状態がほとんど縮退していることが示され、極低温での電子常磁性共鳴(EPR)測定により、理論と実験で整合する結果が得られた(Xu et al., JACS)。さらに分子構造をもとに強結合ハバードバモデルを構築し、ハミルトニアンを簡略化した上で高精度に電子相関を取り込む計算を行なったほか、このハバードモデルを量子コンピュータ上で動作するアルゴリズムで解くことを試みた。ハバードモデルであれば、量子コンピュータの量子ビット数の制約から活性空間は限られるものの、基底関数の制約を受けずに電子状態を求めることができる。8量子ビットを用いた計算により、CASSCFに近い精度で一重項と三重項の縮退を導き出すことができた。また、二重ヘリセン構造を持つ分子に対して励起状態計算とスピン軌道相互作用の計算を行い、S1とT2の間に存在する大きなスピン軌道相互作用が項間交差による無輻射失活の原因であることを明らかにした(Hong et al., Chem. Euro. J)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナ禍が落ち着いた状況になってきたこともあり、予定通り海外渡航を行えつつある。それにより、相手方研究機関との活発な共同研究が行えており、それが論文として複数発表されている。また、国内での研究活動も順調に進んでおり、合成・計測・計算が一体となった研究活動を行えている。以上の理由から、現在までの研究はおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は引き続き新奇GNRや関連した多環化合物の精密合成と先端測定、さらに理論的検討を進めていく。研究分担者らははマックス・プランク高分子研究所(MPIP)のBonnグループが5/8~5/11に開催予定である全体会合に出席、これまでの成果を発表し共同研究を加速する。さらに、4/28~5/7でMPIPに滞在し、水薄膜の振動和周波発生分光スペクトルについて共同研究を実施する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度の前半はまだコロナ禍の影響を受け、海外渡航を行うことが難しかったため、旅費の支出が予定よりも少なかったことが影響した。2023年度はコロナ禍も落ち着いたこともあり、積極的な海外渡航を行う。
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