研究課題/領域番号 |
21KK0093
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研究機関 | 神奈川大学 |
研究代表者 |
河合 明雄 神奈川大学, 理学部, 教授 (50262259)
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研究分担者 |
高橋 広奈 岡山理科大学, 理学部, 講師 (00803529)
柏原 航 青山学院大学, 理工学部, 助教 (30836557)
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研究期間 (年度) |
2021-10-07 – 2024-03-31
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キーワード | スピン分極 / NMR感度増強 / キサンテン色素 / 光励起 / 三重項消光 / ニトロキシドラジカル |
研究実績の概要 |
本研究では、化学分析や物性評価、医学でのMRIなどで広く使用されているNMR分光法について、その感度を光照射によって飛躍的に増強させる技術開発を行なう。これにより、光照射部位のみを選択的にNMR観測する新しい計測法を開拓する。これが実現すれば、溶媒和圏のある溶媒分子の観測とその動的現象の解明を行い、化学反応に大きな影響を与える溶媒和圏に関する理解が高まる。これにより化学分野、特に溶液化学の発展に寄与することができる。 研究の戦略では、代表者が解明した光励起三重項分子のニトロキシドラジカルによる消光過程で発生する電子スピン分極(DEP)を用いる。このDEPが、Overhausser効果によってラジカル近傍に位置する溶媒分子の核スピンを分極させる。これにより、ニトロキシドラジカル周辺の溶媒分子のみNMR強度が増す。すなわち、溶媒和圏分子の選択的なNMR観測につながる。代表者らは、大きなDEPを与える分子として、キサンテン色素の一種であるローズベンガルが最もすぐれていることを、パルスESR法によるDEP強度の計測で明らかにしている。また、溶媒としては、小さなサイズである水が最も大きなDEPを与え、アルコール類中でもDEPが発生することを見出した。ただしアルコールの場合、分子サイズが0.5nmを越えると、生じるDEPが急速に小さくなることを時間分解ESR計測から示した。従って、水溶液がもっとも本計測法に適した系であると結論している。 溶媒和圏分子のNMR信号増強については、英国の Chris Wedge 博士が専門であり、代表者と共同で研究推進している。代表者らのDEP発生強度の情報をもとに、英国側でNMR感度増強度の測定実験を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度の半年では、共同研究者である英国のC.Wedge博士とWebを通じた研究打ち合わせを何度か行い、NMR感度増強に資する添加剤についての詳細な情報を入手した。とくに、アミノ酸分子の添加がNMR感度を高めることが分かり、これを重点的に研究することとした。すなわち、光照射で最終的に核スピン分極発生にいたる一連の物理化学的なプロセスのどの過程にアミノ酸分子の影響があるのかを明確にする実験を実行することとした。 手始めに、ローズベンガルとニトロキシドラジカル(TEMPO)の水溶液系における光照射を対象として、この系にグリシンを1mol/L程度加えることでNMR強度が2倍以上に増える現象を調べることとした。グリシン添加で反応系に何らかの影響があった場合、ローズベンガル三重項のニトロキシドによる消光速度定数が変化する可能性がある。これを明らかにするため、663nmのダイオードレーザーを用いた過渡吸収法でローズベンガル三重項の寿命を計測し、TEMPO濃度に対する変化を測定することで消光速度定数を求めた。この実験をグリシンの有り無しで行なったところ、消光速度定数は誤差の範囲内で違いが見られなかった。従って、DEP発生を引き起こす三重項のラジカルによる消光過程は、NMR感度増強に対するアミノ酸添加効果について、なんら影響を与えないと結論した。ただし、グリシン添加した系ではローズベンガル三重項の吸光度が小さくなっていることが確認された。この原因として、グリシン添加での三重項発生量子収率の低下が推察される。しかし、この現象が起こった場合は電子スピン分極をもつ分子の数が減ることとなり、NMR感度増強とは逆の作用があると思われる。この他、グリシン添加でのロ-ズベンガル光吸収スペクトルの変化も見られた。これらの詳細を今後、調査検討する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
NMR感度増強を実現するために、どのような化学系が理想的であるかを見出すことが、本研究の目的達成には重要である。そのためには光誘起のDEP発生やOverhausser効果による核スピン分極の発生機構を解明する必要がある。英国のC.Wedge博士からの情報によれば、NMR強度増強にはアミノ酸系添加剤による効果が顕著にあらわれることが示されている。従って、これらの添加剤が、DEP発生に影響するのか否かをまずは明らかにする必要がある。 検討すべき明瞭なNMR増強効果が見られた添加剤としては、アミノ酸であるグリシン、ヒスチジンがある。ただし、これらの濃度とNMR感度増強の効率の関係は複雑であり、とくにヒスチジンの場合はヒスチジン濃度の増大に対してNMR感度増強が一度高まり、そのあと減少に転じる不可解な挙動が見られている。このような添加アミノ酸の濃度の効果が、DEP発生から核スピン分極に至る一連の現象に対してどのような働きがあるのかを調べることが重要である。そのためには、まずは第1ステップであるローズベンガル三重項のTEMPOによる消光過程が添加剤に対してどのような依存性を示すかについて過渡吸収法で調べる必要がある。またグリシンやヒスチジンを添加した場合のDEP発生強度について、パルスESR法を用いた計測を行う。これにより、NMR増強の効率がDEPの大きさに比例するかを精査し、DEPの大きさとNMR増強の効率の関係をあきらかにする基礎データを収集する。 国際共同研究の推進に当たっては、相手方の実験設備や人員に直接関わり、先方の研究グループと共同作業を行なうことも重要である。現在のCOVID19感染症の状況にもよるが、代表者のグループが精通していないNMR強度増強の計測実験を行う目的で、2022年度内に英国C.Wedge博士の研究室を訪問する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、初年度に英国のC.Wedge博士を訪問し、国際共同研究の実際の進め方について協議する予定であった。しかし、COVID19感染状況が問題となり、これを断念した。代替として協議をWebベースでおこなったため、海外旅費が削減となった。交流のためには残念な計画変更であった。 また、初年度に購入を考えていたオシロスコープについて、代表者の所属機関の別予算で購入が可能となった。そのため、この予定を変更し、2022年度に購入予定であったレーザーや光検出器について、よりすぐれた機種の導入経費に充てることとした。
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