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2022 年度 実施状況報告書

光誘起スピン分極現象によるNMRの高感度化と溶媒和圏選択観測

研究課題

研究課題/領域番号 21KK0093
研究機関神奈川大学

研究代表者

河合 明雄  神奈川大学, 理学部, 教授 (50262259)

研究分担者 高橋 広奈  岡山理科大学, 理学部, 講師 (00803529)
柏原 航  青山学院大学, 理工学部, 助教 (30836557)
研究期間 (年度) 2021-10-07 – 2024-03-31
キーワードスピン分極 / ラジカル三重項対機構 / レーザー励起 / パルスESR / ニトロキシドラジカル / キサンテン色素 / 三重項消光 / NMR感度増強
研究実績の概要

本研究は、広い学問分野で利用されているNMR分光法について、その感度増強の実現を目的としている。この技術開発により、微量の化学物質NMR計測や、局所的なNMR観測に資する基礎的な知識を得ることを目指す。そのために、申請者が発見したラジカルと三重項分子の衝突過程でラジカルに大きな電子スピン分極が生じる現象を利用する。電子スピン分極は、周囲にある物質の核スピンに影響し、オーバーハウザー効果によって核スピンを分極させる。この現象については、本国際共同研究の重要な研究相手である英国Huddersfield大学のWedge博士が専門としており、彼らの研究チームの装置および知見を有効に生かす。
本研究2年目は、コロナ禍の影響が和らぎ、対面による国際交流が再開し始める環境になり始めたため、英国チームの来日、および日本チームの渡英が実現した。英国チームの研究情報によれば、ラジカルを利用したNMR信号増強過程にアミノ酸などの添加物が影響し、特にグリシンの影響が大きい。しかしその原因は解明されていない。この効果がラジカルの電子スピン分極発生時に働いているのかを調べるため、英国チームが来日して共同実験を行った。ニトロキシドとキサンテン色素の系のレーザー励起で発生する電子スピン分極強度をパルスESR法で正確に測定し、その大きさをラジカル三重項対機構のモデルで解析した。
英国チームの来日後、その成果にもとづいて、アミノ酸以外にイオン強度が影響する可能性が指摘された。そのため、NaClなどの塩を添加した場合の電子スピン分極発生やラジカルスピン緩和時間の変化を計測した。特にNaClの添加でラジカルのスピン緩和時間が長くなる興味深い結果が得られた。この知見に基づいて、日本チームが英国を訪問し、NaCl添加によるNMR信号増強の度合いについての実験を日英共同で行った。3年目も引き続きデータを収集する。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

本研究では、日本チームがパルスESRやレーザー分光法でニトロキシドラジカルの電子スピン分極発生機構を解明し、英国チームではその電子スピン分極を利用してNMR信号の増強の実現とその過程の機構解明を行う。この相補的な協力による国際共同研究を通し、光によるNMR信号増強を実現することを目指している。この目的に当たっては、日英相互に相手を訪問し、互いの実験技術やノウハウについての深い理解に基づいた共同研究を進める必要がある。初年度および2年度の前半は、コロナパンデミックによる人的交流の抑制が日本側で大きな問題であったため、相互訪問が実現しなかった。Zoomを利用したWeb会議による情報交換を行ったが、実際に相手国を訪問して実験の実体験を通した理解を進める場合とは比較にならない低レベルな共同研究であった。
本共同研究のロードマップでは、①光励起で大きな電子スピン分極を生じるモデル系の選定、②モデル的な系でのNMR信号増強に資する試料セルのデザイン、③モデル系でのNMR増強の測定と実験条件の最適化、④モデル系での溶媒和圏溶媒分子NMRの選択的観測と溶媒和圏構造の理解、を重要項目に位置付けた。初年度、2年度を終えた時点では、①について添加剤の効果を精査している段階である。②試料セルの設計については、英国の自作NMR観測装置の詳細を、2022年度末期に英国訪問して初めて理解した段階であり、最終年度に取り組むこととなる。④の溶媒和圏分子の選択的観測については、英国訪問時にNMRで観測する化学シフトの正確さについて問題がある可能性が指摘された。溶媒和圏分子のわずかなシフト値の違いを観測し分ける工夫が必要である。

今後の研究の推進方策

本国際共同研究については、基幹となる日英共同研究の発展と、そこを苗床とした多国間の国際共同研究関係の構築の2つの方向性が重要である。最終年に向けてはこの視点での発展を目指す必要がある。
日英共同研究については、イオン強度が水溶液中のニトロキシドラジカルの緩和時間に影響を与える可能性が見出された点が大きな成果である。最終年はこのメカニズムの解明を行いながら、NMR信号増強が最大となるキサンテン色素や添加イオン種の選定およびイオン濃度の探査を行うことが重要と考える。これにより、現在の最良なモデル系であるローズベンガル/ニトロキシド水溶液にグリシンを加えた場合で達成した5倍程度のNMR強度増強を、数倍程度改善することを目指す。
国際交流の拡大については、2023年の英国訪問やその際の国際学会参加で、対面交流を進めることができ、Huddersfield大学以外にもManchester大学の核スピン分極研究者、Cambridge大学のニトロキシドラジカル以外のラジカルでの光誘起電子スピン分極発生現象の解明を進める研究者、イタリアのトリノ大学で半導体ナノシートにおける光誘起電子スピン分極発生を行う研究者と交流することができた。最終年はこれら研究チームとの交流をすべく、2023年7月にはイタリアの研究チームを訪問し、核スピン分極の可能性まで含めた共同研究の検討を行う予定である。また2024年春には、これら欧州の研究者を中心にした光誘起電子スピン分極発生や核スピン分極発生の専門家を集めた国際交流集会を日本で開催し、現在の研究の総括および、今後の国際共同研究体制の在り方について議論したいと考えている。

次年度使用額が生じた理由

基幹となる英国Huddersfield大学のWedge博士の研究室との相互訪問が、コロナ禍の海外渡航および外国人入国制限のため、初年度全ておよび2年度の前半は事実上不可能であった。そのため、国際交流の旅費の支出が大きく抑制されている。また、ロシアのウクライナ侵攻などを原因とした欧米の極めて高いインフレの影響で、購入予定していた海外製レーザーなどの価格高騰が、その他の設備品購入計画に影響した。また最終年に多数の海外渡航を考えているが、海外でのインフレによる想定外の滞在費高騰に備え、資金を残しておく必要があると考えた点も影響している。

  • 研究成果

    (9件)

すべて 2023 2022 その他

すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件)

  • [国際共同研究] Huddersfield University(英国)

    • 国名
      英国
    • 外国機関名
      Huddersfield University
  • [雑誌論文] Stepwise generation of spin-polarized radicals and their reactions in the photolysis of an oxime ester compound as studied by pulsed EPR spectroscopy2023

    • 著者名/発表者名
      Hirona Takahashi, Hiroki Hirano, Akio Kawai
    • 雑誌名

      Journal of Photochemistry & Photobiology, A: Chemistry

      巻: 441 ページ: 114690

    • DOI

      10.1016/j.jphotochem.2023.114690

  • [雑誌論文] Pulsed EPR Study of the Initial Steps of Radical-Scavenging Reactions of C70 with Diphenylphosphine Oxide, Hydroxycyclohexyl, and 2-Hydroxypropyl Radicals2022

    • 著者名/発表者名
      Hiroki Hirano, Hirona Takahashi, Akio Kawai
    • 雑誌名

      The Journal of Physical Chemistry B

      巻: 126 ページ: 6074-6082

    • DOI

      10.1021/acs.jpcb.2c03398

  • [学会発表] Dynamic Electron Polarisation in Radical-Triplet Systems2023

    • 著者名/発表者名
      Hirona Takahashi, Hiroki Hirano, and Akio Kawai
    • 学会等名
      The 56th Annual International Meeting of the ESR Spectroscopy Group of the Royal Society of Chemistry
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] 一重項酸素の時間分解ESR計測2022

    • 著者名/発表者名
      河合明雄
    • 学会等名
      第61回電子スピンサイエンス学会年会
    • 招待講演
  • [学会発表] レーザー同期パルスEPRによるスピン磁化観測を用いたラジカル反応速度定数計測法の構築2022

    • 著者名/発表者名
      平野弘樹, 永田藍,丸茂海斗, 高橋広奈, 中西郁夫, 河合明雄
    • 学会等名
      第61回電子スピンサイエンス学会年会
  • [学会発表] フェノール系抗酸化剤とラジカルの反応に対するパルスESR法による機構解明と速度定数決定2022

    • 著者名/発表者名
      丸茂海斗, 平野弘樹, 河合明雄
    • 学会等名
      第61回電子スピンサイエンス学会年会
  • [学会発表] Thermal isomerization reaction mechanism of phenylazo-substituted imidazolium for understanding of ionic liquid photochromism2022

    • 著者名/発表者名
      伊藤雄介, 石井匠, 永田拓未, 田制薫, 河合明雄
    • 学会等名
      第12回イオン液体討論会
  • [学会発表] Pulsed-EPR study for radical reactions with biological antioxidants utilizing quantum effect of electron spin2022

    • 著者名/発表者名
      Hiroki Hirano, Kaito Marumo, Ikuo Nakanishi, Akio Kawai
    • 学会等名
      Quantum Innovation 2022, The International Symposium on Quantum Science,Technology and Innovation

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公開日: 2023-12-25  

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