研究課題
本年度は、ネッタイシマカにおいて頻繁に感染が見られる昆虫特異的ウイルスであるCFAVが自然感染しているネッタイシマカ系統のvirome解析を行った。その結果、当該系統には6種類の異なるウイルスが感染している可能性が示された。それぞれのウイルスの感染率は、大きく異なっているものの6種全てのウイルスに感染する蚊個体も観察された。またこれらのウイルスの感染部位と経時的なウイルス量の解析を行ったところ、CFAVと同様に中腸や卵巣などを含めた主要器官において、ウイルスRNAが検出され、発達段階や成体日齢にかかわらず同程度のウイルスRNA量が観察された。さらに異なるウイルス同士の複製が競合することはみられなかったことから、蚊個体内において、多様なウイルスが共存関係にあることが示唆された。さらに媒介蚊のウイルス感染への寛容性を蚊媒介性ウイルスであるデングウイルスを用いて評価した。デングウイルス感染蚊群と非感染蚊群間における生存率に有意な差は認められなかった。また、低栄養条件下においても、デングウイルス感染による急激な生存期間の短縮などは認められなかったため、ネッタイシマカはデングウイルスに対しても非常に高いレベルで寛容性を有していることが示唆された。また、ネッタイシマカに病態を引き起こしうる蚊の遺伝子を探索し、細胞株ならびに蚊個体において過剰発現させるための準備を行った。
2: おおむね順調に進展している
本研究室で飼育しているネッタイシマカ系統に多様な昆虫特異的ウイルスが競合することなく共感染していることが明らかになった。それにもかかわらず、繁殖する上で十分な時間を生存・活動することが観察された。また昨年度に構築したデングウイルス感染実験系を用いて、ネッタイシマカにおける不顕性感染の成立を評価した。デングウイルス感染蚊は、低栄養下においても急激な生存率の低下を示さなかったため、昆虫特異的ウイルスだけでなく、蚊媒介性ウイルスに対しても、シマカが有するウイルス感染へ高い寛容性が明らかとなった。さらに蚊に病態を誘導しうる遺伝子の探索にも着手できた。パスツール研究所ならびにデ・ラサール大学とも、引き続き強い共同研究体制を維持していることを含め、以上を総合的に考え、おおむね順調に進展していると判断した。
複数の昆虫特異的ウイルスに共感染している蚊個体における免疫機構がどのように機能しているのかを解析する。また蚊の飼育時における栄養条件をさらに変動させることで、昆虫特異的ウイルスや蚊媒介性ウイルスによる潜在的な病態誘導を評価する。また、本年度に同定した病態誘導を起こしうる遺伝子を過剰発現させることによる蚊の細胞・個体への影響を検討する。
使用する試薬の期限等と考慮し、次年度に購入を見送ったものがあったため。
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すべて 国際共同研究 (4件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 2件、 招待講演 2件)
Virology
巻: 591 ページ: 109982~109982
10.1016/j.virol.2024.109982
Royal Society Open Science
巻: 11 ページ: N/A
10.1098/rsos.231373