研究課題/領域番号 |
21KK0129
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研究機関 | 国立遺伝学研究所 |
研究代表者 |
酒井 則良 国立遺伝学研究所, 遺伝形質研究系, 准教授 (50202081)
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研究分担者 |
菊地 真理子 名古屋大学, 理学研究科, 助教 (20845135)
河崎 敏広 国立遺伝学研究所, 遺伝形質研究系, 助教 (30770630)
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研究期間 (年度) |
2021-10-07 – 2025-03-31
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キーワード | 減数分裂 / ライブイメージング / 生殖細胞培養系 / ゼブラフィッシュ / メダカ |
研究実績の概要 |
減数分裂では、特異的な染色体構造のダイナミックな動的変化とそれに伴う相同組換えの一連のプロセスが時間軸に沿って秩序立って起こる。その全体像を理解するためには、動的な変化の理解が不可欠であるが、脊椎動物ではまだ適当な実験系はない。本研究では、ゼブラフィッシュにおける減数分裂全過程をカバーする精子形成培養系、メダカにおける卵巣と精巣の組織培養系および遺伝子ノックイン技術と、ゼブラフィッシュにおける卵巣イメージング法を統合して、減数分裂特異的染色体構造の動的な変化を絶対時間軸に沿ってモニターできる新規ライブイメージング法を確立することを目的とする。 減数分裂期減数分裂期の染色体は特徴的な軸-ループ構造をとり、組換えの進行に伴って、相同染色体を物理的に繋ぐシナプシスを生む。そして、この構造を足場として一連の組換えタンパク質が秩序立って機能する。これらの染色体構造、シナプシス形成と組換えタンパク質群の挙動をモニターするために、個々のタンパク質の蛍光標識技術と培養系による高解像度イメージング技術が不可欠である。昨年度までに、ゼブラフィッシュではトランスジェニック技術、メダカでは生殖細胞培養法の改良を行い、精母細胞の染色体動体をイメージングできることを確認した。これを踏まえ、本年度は、sycp3-egfpトランスジェニックメダカを用いて卵巣と精巣の初代培養によるライブイメージング解析を行い、減数分裂期の各ステージにおける染色体動態を定量的に解析したところ、ザイゴテン期からパキテン期にかけて急速な染色体回転運動がおこり、その回転運動の速度には雌雄差があることが認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度に確立した生殖細胞の初代培養系を用いて、野生型メダカ卵母細胞および精母細胞のライブイメージングをおこなった。初めに、培養条件下で観察される細胞の第一減数分裂前期におけるサブステージ(レプトテン〜ザイゴテン初期、ザイゴテン後期、パキテン初期、パキテン後期)を、免疫染色(SYCP1/SYCP3/DAPI)により同定した。次に、sycp3-egfpトランスジェニックメダカを用いて、SYCP3-EGFPおよびKakshineのシグナルを用いて各サブステージのタイムラプス画像を取得し、染色体運動をトラッキングした(Fiji, TrackMateプラグインを使用)。その結果、パキテン期の染色体が急速な回転運動を示すことが明らかになった。またこの回転運動の速度には雌雄差がみとめられた。 ゼブラフィッシュでは、昨年度、Hoechst 33342で処理したゼブラフィッシュ培養精母細胞の染色体イメージング画像をDeltaVision Ultraで得られることがわかったため、本年度はヒストンをGFP標識したh2a:H2A-GFPトランスジェニックゼブラフィッシュを入手するとともに、テロメアの挙動をモニターできるsycp1:terf1-mNeonGreen系統の作製を進めた。また、これまでに得られたterb2ノックアウトゼブラフィッシュでは、染色体の核膜結合や染色体ブーケ構造の形成が異常となることを明らかにした。さらに、国際共同研究者のThe Hebrew University of JerusalemのElkouby博士へ訪問し、ライブイメージング設備を確認して、今後の具体的な計画を策定した。Elkouby研究室で作製したterb1ノックアウトゼブラフィッシュとterb2ノックアウトを交配させて、二重変異体の作製を進めている段階である。
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今後の研究の推進方策 |
メダカではザイゴテン期からパキテン期にかけて急速な染色体回転運動が生じるのと同時期に、核周辺の微小管ネットワークが再配向され、染色体ブーケ構造が解体されることが分かりつつある。これらの観察結果をもとに、2023年度は減数分裂の進行に伴う回転運動の制御機構や、回転運動の雌雄差をもたらす遺伝的カスケードを明らかにしたい。そのために、sycp3-egfpトランスジェニックメダカと複数の変異体系統(foxl3, rec8a, rec8b, terb1)を交配し、ライブイメージングに向けた準備を進める。ゼブラフィッシュではh2a:H2A-GFP系統や現在構築中のsycp1:terf1-mNeonGreen系統と、従来の固定標本により表現型が詳しく解析されている減数分裂変異体sycp1, sycp2と交配してイメージングを進め、絶対時間軸における減数第一分裂前期のプロセスを正確に把握するとともに、複数の変異体(mcmdc2, terb1, terb2, terb1/2)と交配して、ライブイメージングによる表現型解析の準備を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナ感染防止措置のために、国際共同研究先のイスラエルElkouby研究室に、まだ酒井が1度しか訪問できていないため。感染防止措置がほぼ解除されたため、Elkouby博士の訪日費用を含めて、主に旅費として使用し、残りはその研究遂行のための物品費として使用する計画である。
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