研究課題/領域番号 |
21KK0140
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
小野寺 康仁 北海道大学, 医学研究院, 准教授 (90435561)
|
研究分担者 |
西岡 蒼一郎 北海道大学, 医学研究院, 博士研究員 (50913000)
Nam JinMin 京都大学, 生命科学研究科, 准教授 (60414132)
|
研究期間 (年度) |
2021-10-07 – 2026-03-31
|
キーワード | 放射線治療 / がん代謝 / 代謝協調 |
研究実績の概要 |
本年度は、腫瘍内の代謝微小環境を再現するin vitro解析系の改善と、それを用いたメカニズム解析に着手した。特に、栄養素濃度の不均一性によって生じる特殊な代謝微小環境において観察されるconventionalな治療法への耐性メカニズムの詳細について、分泌タンパク質に着目した解析を行った。また、今後のより詳細な解析において結果に無視できない影響を及ぼす懸念のある「栄養充足細胞からの微量グルコースの漏洩」について、その可能性を検討するための実験を行った。 「栄養充足細胞」および「栄養欠乏細胞」の共存する条件(代謝協調状態)において特異的に分泌される何らかのタンパク質が両者の放射線耐性を高めると仮定し、両者の共培養系で得られる馴化培地に存在するタンパク質の解析を行った。細胞特異的な糖代謝制御に用いる「グルコース前駆体」を用いた「栄養充足細胞」(当該の前駆体をグルコースに転換して生存できる細胞)の単独培養や、通常グルコース濃度(5.5 mM)における「栄養充足細胞」および「栄養欠乏細胞」(ただしこの場合はいずれも栄養充足状態になる)の共培養などを比較対象として、馴化培地中のタンパク質(アルブミンを除く)を回収した。これらをアクリルアミドゲル電気泳動で分離して銀染色を行ったところ、代謝協調状態において特異的に認められる幾つかのタンパク質バンドが確認できた。現在、質量分析による当該タンパク質の同定を進めている。 また、「栄養充足細胞」および「栄養欠乏細胞」の共培養条件における、前者からのグルコース漏出が後者の生存性維持に寄与し得るか検討するため、後者における解糖系代謝酵素GPIのノックダウンを行った。GPIノックダウン細胞の単独培養は増殖および生存を著しく阻害したが、共培養下では影響がほとんど見られなかったことから、僅かに漏出するグルコースの寄与は殆ど無視できるものと判断できた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの代謝産物解析等では見い出せていなかった、共培養環境下に特異的な分泌因子の存在が確認できたことは、治療耐性の本態解明に向けての大きな前進であり、たいへん期待のできる結果であると考えている。しかしながら、結果の再現性を確認するために時間を要したことなどもあり、現時点ではタンパク質の同定には至っていない。一方、懸念材料であった「栄養充足細胞」からのグルコース漏出による「栄養欠乏細胞」の生存性維持の可能性については、解糖系を事実上遮断することによってもその生存性が殆ど影響を受けなかったことから、ほぼ完全に否定できたと言える。既に得ている代謝産物解析の結果も併せて、「栄養欠乏細胞」がグルコース以外の何らかの物質の供給によって生存性を維持しているのは間違いないと考えている。なお、解糖系酵素のノックダウンには新たに作成した薬剤誘導性のノックダウンベクターシステムを利用しており、それに関しては別途、論文発表を行う予定である。以上を勘案して、「おおむね順調に進展している」と判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
前述のように、代謝協調下で「栄養充足細胞」と「栄養欠乏細胞」の両者に生じる放射線耐性を媒介し得る液性因子の候補がいくつか見つかっている。今後の研究の推進方策としては、それらの同定および機能解析を最優先で進める予定である。具体的には、電気泳動および銀染色により差異の認められるタンパク質のバンドを回収して質量分析により同定し、代謝協調下の「栄養充足細胞」および「栄養欠乏細胞」のタンパク質抽出液を回収して当該タンパク質の発現がどちらの細胞で亢進しているか確認する。また、前述の新たに開発した薬剤による制御が可能なノックダウンベクターを用いて、当該タンパク質の発現抑制を行い、治療耐性への影響を確認する。また、線量率(conventionalまたはFLASH)、線種(X線や陽子線など)、分割回数などの照射条件の違いによる代謝協調の影響について、本格的な解析を開始する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
消耗品の購入や質量分析に伴う費用などについて、本研究と非常に関連の深い研究の経費(民間財団より受給、重複制限なし)を用いて賄うことが可能であったため、本経費の使用については大幅に軽減することができた。なお、今後の研究で必須となる培養系の調整やFLASH実験についての打ち合わせ等のため、国内および国外旅費が発生したが、その分については上記の研究費に含めることは不適切であったため、本研究費により支出した。発生した余剰分については、次年度以降に消耗品の購入や解析サービス、あるいは人件費に充てることで、研究の効率化のために役立てる予定である。
|