研究課題
本研究の目的は、高齢期の健康長寿と幸福な老いに関連する要因を検討し、ポジティブな健康資源について明らかにすることである。認知症予防に関連する改変可能な要因(modifiable risk factors)と、主観的幸福感等を含むWell-beingの決定要因について、日本国内での検討と、国際比較検討を行うことを計画している。加えて、認知症の発症予防や認知機能の維持・増進に関連する、社会心理的要因のメカニズムの一端の検証を目指している。そのために、今年度の活動として、認知機能の測定・評価について2府県の対象地域において小規模調査を行い、尺度等の妥当性の検討を実施した。また、日本国内における高齢期の認知症発症と、要介護認定の発生など、健康長寿の指標に関連する要因の検討を進めた。結果として、(1)社会階層、教育歴等の社会経済的背景、(2)地域における社会参加、組織参加、社会関係資本、音楽活動への参加、余暇活動など、社会活動の強度や頻度、(3)食品摂取や労働時の身体活動、運動習慣等の生活習慣、(4)笑いの頻度、笑う相手や笑いの場面、生きがい感の有無などの心理的要因が、認知症の発症、要介護認定の発生と関連することを報告した。Livingstonらが報告している、9要因、12要因の改変可能な要因に加えて、社会的・心理的要因が認知症の発症や健康長寿の指標に関連することを明らかにした。また、高齢期の心身の健康指標の一つとして、うつ傾向や幸福度などpsychological well-beingをアウトカムにした検討も行い、関連要因の報告をした。今年度は、国際的な感染症流行のため、海外への実渡航に制限があり、日本国内で分析可能なデータセットを使用した研究活動と、妥当性検証のための新規の調査実施が主な活動であった。世界的な感染症の流行の状況を見極めながら、今後更に国際共同研究を進める。
2: おおむね順調に進展している
今年度の主な活動として、小規模調査の実施(妥当性検討)、国際共著論文を含む、健康長寿の社会的決定要因に関する論文の出版、高齢者の地域データの解析と報告がある。特に、ポジティブな心理健康資源と健康の関係については、笑いの頻度や、笑う状況(一緒に笑う人、受動・能動等)が認知症、要介護認定、機能障害の発生に関連することを、共同研究者と共に観察研究から報告した。更に「笑い」の増加が、体重変化やメンタルヘルスに影響することを、RCTデザインによる介入研究にて報告した。Traitとしての「楽観性志向」について、日本人高齢者では楽観性志向が死亡リスクとは関連しない一方で、被災地在住の高齢者では、発災前の楽観性と、被災後のPTS(D)やうつ発生が関連することを明らかにした。「生きがい感」については、循環器疾患死亡、肺炎死亡のリスク低下と関連することを15年間の追跡調査から報告した。更に3時点の調査データを用いて、アウトカムワイドの分析手法により、複数アウトカムとの間で関係性がみられることを報告した。加えて自治体と協力して、地域高齢者を対象に、健診データを用いた解析を実施し、マルチレベル解析の手法を用いて、生きがいならびに、社会関係資本と高血圧、メタボリックシンドローム、肝機能障害等との関連性を報告した。結果から日本人においても、ポジティブな健康心理資源等の要因が重要な要因の一つであると考えられた。今年度は感染症の世界的な流行により、実渡航が難しい状況だった。その中でオンライン等を活用して、計画は概ね順調に進展している。次年度は、国際比較検討を通して、普遍性がある改変可能な予防要因の特定と、老いの質に直結する主観的幸福感とWell-beingに影響する要因を検討する。超高齢社会における認知症、要介護状態等の予防と、より豊かな老いの実現に資する社会環境整備を進めるためエビデンス獲得を目指す。
今後の研究推進の方策として、国際比較検討を通して、国際的に共通する認知症予防に資する改変可能な要因の特定と、老いの質に直結する主観的幸福感とWell-beingの構成に影響する要因を検討する。その中で、超高齢社会における認知症予防とより豊かな老いの実現に資する社会環境の整備を進めるためのエビデンス獲得を目指す。海外研究機関で直接データアクセスして解析し、補完的な調査を実施することで、評価方法の違い等を考慮しながら、現地研究者と議論し、実質的な国際比較検討を行うことを目指す。国際的に普遍性がある要因と、各国に特徴的にみられる要因を明らかにすることで、医療保障体制を含めた異なる社会環境の各国において、認知症予防や健康長寿の達成のために、今後重点化すべき要因、求められる社会的制度やサービス提供の方向性が明らかになる可能性が高いと考えられる。今年度は、新型コロナウィルス感染症の世界的な流行拡大により、予定期間の海外への実渡航は難しい状況であった。そのため、アクセスが許可されたデータを主な分析対象として解析を行い、共同研究者との議論や意見交換についても、オンライン等を活用して進める方法を取った。今年度は、海外における研究データの構築や共有が難しい状況であったため、日本国内において、認知機能の測定に関する評価指標の妥当性検討を行い、今後の海外共同研究に活用できる資料の整備に努めた。今後は、感染拡大の状況等を見極めながら、国際共同研究を進める計画である。
次年度使用額が生じた理由として、今年度は新型コロナウィルス感染症拡大のため、人の移動が制限される状況があった。感染症の流行がある程度収まった時期、拡大した時期により、実移動を伴う経費の支出を計画することが難しく、予定していた国内の移動や会議等について、オンラインでの実施となった。そのため、次年度以降に現地でデータアクセスや、打ち合わせが必要な際の経費として使用することを計画し、次年度以降の使用額が生じることとなった。
すべて 2023 2022 2021 その他
すべて 国際共同研究 (5件) 雑誌論文 (46件) (うち国際共著 22件、 査読あり 46件、 オープンアクセス 37件) 学会発表 (32件) (うち国際学会 1件、 招待講演 4件)
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