研究課題/領域番号 |
21KK0214
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
藤井 崇 京都大学, 文学研究科, 准教授 (50708683)
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研究期間 (年度) |
2022 – 2024
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キーワード | ローマ / ヘレニズム / ギリシア |
研究実績の概要 |
本国際共同研究の目的は、ポンペイウスからユリウス・クラウディウス朝にいたるローマ帝国形成期を対象に、小アジア・ギリシア本土・島嶼部のギリシア人都市の名望家層がローマ人有力者・帝国政府との多様な関係のなかで成立した状況と、帝国エリートとしてのアイデンティティを獲得したプロセスを明らかにすることである。本研究は、ミュンヘン大学歴史学部のジョン・ヴァイスヴァイラー教授との共同研究としておこなわれる。 ミュンヘンへの渡航は2023年度となったため、当該年度は、関連する翻訳書の監修、ヴァイスヴァイラー教授とのzoom等による研究打ち合わせ、2023年度の研究のための予備的研究などをおこなった。翻訳書の解説については、ピーター・トーネマン(オクスフォード大学)著、藤井千絵訳『古代ローマ人は皇帝の夢を見たか』(白水社、2023年3月刊行)を監修し、日本語文献案内ならびに解説を執筆した。本書は、3世紀のローマ帝国を生きた小アジアのギリシア人であるアルテミドロスの『夢判断の書』を丹念に分析して、ローマ帝政期の小アジアの世界のさまざな側面を活写した好著である。日本語文献案内・解説では、本書に関わる歴史学的事象・論点を、特に帝政期のギリシア人という観点からまとめた。アルテミドロスの『夢判断の書』に関する日本西洋古典学会大会における報告とあわせて、本国際共同研究を位置付けるための時代背景を理解する格好の予備的作業となった。 また、ヴァイスヴァイラー教授とzoom等で定期的に研究打ち合わせをおこない、本国際共同研究においてローマ帝国の経済に関する考察を組み入れる必要性をあらためて認識した。その結果、ヴァイスヴァイラー教授が主宰者の一人となっている、「古代世界における不平等な発展」を対象とする研究グループに参加することになり、2023年度に開催される研究集会で報告するための準備を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当該年度は、第一にローマ帝政期のギリシア人の世界を理解するための作業、第二に2023年度の渡航後の研究集会報告のための予備的研究という点で、当初の計画以上に本国際共同研究を進めることができたといえる。第一の点については、上記「研究実績の概要」で述べたように、アルテミドロス『夢判断の書』に関する翻訳書の監修ならびに学会報告をおこなうことで、本国際共同研究の対象の大きな部分をしめるローマ帝政期小アジアのギリシア人の世界についての歴史学的事象・論点を整理することができた。第二の点については、本国際共同研究をともに進めるヴァイスヴァイラー教授と研究打ち合わせを進め、ヴァイスヴァイラー教授が主宰者の一人となっている「古代世界における不平等な発展」を研究グループに参加することになった。2023年4月にカリフォルニア大学バークレー校で開催される本研究グループの研究集会に登壇することになり、本国際共同研究にさらの経済史の観点を加える理論的土台を整える準備をおこなった。 以上の二つの理由から、当該年度は渡航前ではあったが、渡航後の研究を進めるために計画以上の準備を進めることができたといえる。
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今後の研究の推進方策 |
2023年4月の渡航後は、まず本国際共同研究に関わる先行研究を今一度洗い直し、論点をさらに明確にする。本国際共同研究にとって重要な先行研究として、Bowersock, Augustus and the Greek World (1965)があるが、ヘレニズム期・ローマ帝政期の東方ギリシア語圏の名望家層の形成と王国・帝国経済との関係について、ヴァイスヴァイラー教授との直接の議論を通じて、先行研究の到達点をより具体的に描き出す。一方、ヘレニズム世界の軍事力とローマ帝国支配との関係も本国際共同研究にとっては重要であり、これについても基課題研究を発展させる形で取り組む予定である。 以上の研究の途中経過として、ヴァイスヴァイラー教授が主宰者の一人となっている「古代世界における不平等な発展」についての研究集会などで研究成果を報告し、参加者との議論を深める予定である。
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