研究課題/領域番号 |
21KK0214
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
藤井 崇 京都大学, 文学研究科, 准教授 (50708683)
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研究期間 (年度) |
2022 – 2024
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キーワード | ローマ帝国 |
研究実績の概要 |
当該年度は、ドイツ・ミュンヘン大学での研究滞在を開始し、本研究について大きな進展を得ることができた。本研究の目的は、おもに前1世紀から後1世紀にかけてのローマ帝国形成期を対象に、小アジア・ギリシア本土・島嶼部のギリシア人都市の名望家層がローマ人有力者・帝国政府との多様な関係のなかで成立した状況を、帝政期のギリシア人のアイデンティティを視野に入れながら分析することである。現在は、特に前2世紀末からアウグストゥス期までの、ギリシア人都市名望家層を中心とするローマへの軍事貢献の事例に注目し、ローマへの軍事貢献が彼らの出身都市内あるいは帝国内での政治的、社会的、経済的立場にどのような影響を与えたのかという点について、集中的に研究している。 具体的には、まずストラボン『地理誌』といわゆるカエサル文書(とりわけ『内乱記』と『アレクサンドリア戦記』)を綿密に調査し、ギリシア人都市あるいはその名望家層がローマの軍事行動に参加した事例を洗い出すと同時に、関連する刻文史料についても、Coskun編のウェブ上のデータベースAmici Populi Romaniを通覧して、整理した。ギリシア人名望家層のローマへの軍事貢献はこれまであまり注目されてこなかった研究テーマだが、それでも複数の研究者がこれまで若干の研究をおこなってきているため、そうした研究者の見解を整理した。 研究成果の公表として、海外共同研究者であるジョン・ヴァイスヴァイラー教授が主宰者の一人となっている研究グループ「古代世界における不平等な発展」のカリフォルニア大学バークレー校でのワークショップでの報告と、スイスでの刻文研究者の研究会における報告をおこなった。また、本研究にも関わるギリシア世界の傭兵について、研究代表者が編者の一人となっている英文論集の編集を進め、この論集に投稿したヘレニズム期キプロスの傭兵に関し学会報告をおこなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ドイツ・ミュンヘン大学での研究滞在を開始した当該年度は、当初の計画以上に研究を進展させることができた。本研究は当初、ヘレニズム期・ローマ共和政期おわりのギリシア人都市名望家層の形成を中心的なテーマとしていたが、ヴァイスヴァイラー教授との直接的な研究交流を通じて、この問題をヘレニズム期の名望家からローマ帝政期の名望家のへの移行という灌観点、さらには近年の経済史の動向も踏まえた不平等という観点からも捉えられるようになった。この視野の拡大は、本研究の最終的な成果の公表のなかで、大きな意味を持つものと期待される。 また、ミュンヘン大学を中心としてスイスなどの周辺各国の研究者、ならびにミュンヘンに研究訪問する世界の研究者と交流を深めることで、研究代表者のみならず、研究代表者の指導のもとにある院生・学生の今後の研究にとって役立つ、研究ネットワークの基盤を作ることもできた。 研究成果の公表として、以上に述べた成果の他に、二つの日本語論文の執筆と研究に直接関係する翻訳書の準備も進めることができた。これらについては出版される次年度以降の研究成果として報告したい。
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降、まず「古代世界における不平等な発展」の2回目のワークショップ(ミュンヘン開催)での研究報告に備えて、前2世紀おわりから前1世紀おわりまでのギリシア人名望家層のローマへの軍事貢献についての当該年度の研究成果をまとめ、文章化することに取り組む。その際、戦争と不平等の関係について、ヘレニズム史・ローマ帝国史の枠組みを枠組みを超えた研究を、本研究の理論的軸とすることが重要となる。また、これに合わせて、ヘレニズム期の都市名望家層からローマ帝政期の都市名望家層への移行について、ローマへの軍事協力以外の観点として何が有意義なテーマとなりうるかについて、特に社会地位と経済活動との関係から見極めていきたいと考えている。 また、ミュンヘンでの研究滞在を利用して、国際的な研究者のネットワークを構築すべく、周辺各国での研究報告を積極的におこなっていきたい。具体的には、イギリス・エクセター大学での研究報告が予定されている。また、本研究期間内に京都で本研究に関する国際研究会議を開催する予定であるので、その準備も鋭意進めていく。 また2023年度に作業を進めた、傭兵に関する英文論集、本研究に関する日本語論文、本研究に関する翻訳書などを、今後、確実に出版し、本研究の研究成果として報告したいと考えている。
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