アルツハイマー病の原因物質とみなされるアミロイドβ(Aβ)の蓄積を抑制する薬剤であるレカネマブが、認知機能の低下も抑制した十分なエビデンスを示したとして、米国食品医薬品局(FDA)に承認され、認知科学コミュニティに衝撃を持って受け止められた。わが国でも厚生労働省により承認され、令和5年12月より販売名レケンビとして販売が開始された。国内の報道によれば、医療機関における投与のペースは販売元の製薬会社が想定したものを上回るとされる一方、海外の報道では、米国内の専門家の半数が投与に消極的な態度をとっているとの報告が紹介され、普及が進んでいないとの実情が伝えられた。本研究が対象とする医学的対処可能性については、このように、一致した評価が与えられているとは言い難い状況にある。そのため、論文、学会発表などの資料精査を継続し、神経科学、精神医学、応用倫理学、心理学など複数の関連分野における専門家から、対面とオンラインを含めて広く意見を集めた。また近年、患者を含む個人に医療機関を通さずに企業が直接にサービスや製品を販売するDirect-to-consumer(DTC)が、遺伝学的検査においても活発化しているが、血中Aβとリン酸化タウ蛋白(p-tau)のレベルを特定できる検査も開発され、企業などが検査サービスを提供し、消費者が利用可能となる日も遠い未来では無くなった。これらは医療倫理の四原則における「自律」を促進するものなのか、あるいはかえってリスクとなりうるのか、慎重に見定める必要があり、これについて情報を収集し意見を交換した。
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