研究課題
本研究では、高密度核物質を実現できる重イオン衝突に着目し、高密度領域の核物質の状態方程式(EOS)の情報を引き出すことを目的としている。重イオン衝突実験からEOSの情報を得るためには、核子多体系の微視的な時間発展理論(輸送模型)を用いるが、輸送模型の不確定性によりEOSの導出には限界が生じる。そのため、輸送模型の高精度化が必須である。これまで反対称化分子動力学(AMD)法と微視的輸送模型(JAM)を連動させたAMD+JAM輸送模型を用いていたが、Sn+Snの重イオン衝突実験の荷電π中間子生成データを十分に再現できなかったことから、反応の二体衝突過程でのΔ共鳴等のポテンシャルの影響を正しく取り扱えるように模型(AMD+sJAM)を改善してきた。広い運動量領域における核子の平均場ポテンシャルの運動量依存性は、重イオン衝突におけるΔ共鳴やπ中間子生成を決定する重要な因子であり、特に中性子過剰な系では、中性子と陽子のポテンシャルが異なる運動量依存性を持つ可能性があるため、運動量依存性を注意深く取り扱う必要がある。改善した輸送模型では、二体衝突過程(NN→NΔ)やΔ共鳴の崩壊過程(Δ→πN)の衝突項において、運動量依存のポテンシャルが存在する条件下で、厳密なエネルギーと運動量の保存のもとで計算し、さらにポテンシャルの影響は、閾値効果だけでなく、二体衝突の生成断面積にも影響し、自然な形で考慮されている。132Sn+124Sn衝突計算の結果、中性子と陽子のポテンシャルの運動量依存性が荷電π中間子比に強く反映されることが明らかになった。また、高密度対称エネルギーとΔ共鳴のポテンシャルのアイソベクトル部分がπ中間子生成に与える影響についても詳細に調べ、その結果、中性子と陽子のポテンシャルの運動量依存性の影響に比べると比較的小さいことがわかった。この成果は、国際学術論文として出版した。
2: おおむね順調に進展している
高密度対称エネルギーやΔ共鳴のポテンシャルのアイソベクトル部分がπ中間子生成に与える影響についても詳細に調べたが、それ以上に陽子・中性子のポテンシャルの運動量依存性が、π中間子生成に大きな影響を与えることが分かり、この結果を論文にまとめることができた。また、π中間子のポテンシャルも考慮した重イオン衝突計算のためのコードを作成し、π中間子のポテンシャルの影響を探る計算ができる状況にある。
π中間子のポテンシャルを考慮した重イオン衝突反応の計算を進め、π中間子のポテンシャルが重イオン衝突で生成されるπ中間子にどのように影響するかを詳細に調べる。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)
Progress in Particle and Nuclear Physics
巻: 134 ページ: 104080~104080
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Physical Review C
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