研究課題/領域番号 |
21KK0246
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研究機関 | 国立極地研究所 |
研究代表者 |
菅沼 悠介 国立極地研究所, 先端研究推進系, 教授 (70431898)
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研究期間 (年度) |
2022 – 2024
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キーワード | 東南極氷床 / 周極深層水 / 海底堆積物 / 棚氷崩壊 / 放射性炭素年代測定 |
研究実績の概要 |
近年,急激な棚氷崩壊と呼ぶべき現象(Marine Ice Sheet Instability: MICI)が引き金となる南極氷床の質量損失メカニズムが注目されている.しかし,MICIの実態は未だ不明であり,その発生条件だけでなく,その存在の有無についても議論が分かれている.一方,約2万年前の最終氷期以降におきた全球的な温暖化の際には,南極氷床も大きく質量を減じており,MICIが介した大規模な棚氷崩壊・氷床融解が起きた可能性がある.そこで本課題では,これまで西南極で多くの海底堆積物掘削を実施し,とくにロス海(ロス棚氷)において棚氷崩壊と考えられるイベントを報告したニュージーランドのMcKay博士とスペインのJimenz-Espejo博士,さらに昇温熱分解-放射性炭素年代測定法を用いて海底堆積物の精密な年代決定を可能とするアメリカのRosenheim博士との国際共同研究を実施する.そして,東南極のリュツォホルム湾とロス海で採取された海底堆積物の特徴や化学分析データを比較することで,棚氷崩壊の要因とMICIの影響について考察し,大規模な南極氷床質量損失メカニズムの解明を進める.2023年度は,とくにリュツォホルム湾の海底堆積物について,堆積構造のX線CT画像特徴と粒度,微化石群集と有孔虫の化学分析,ベリリウム同位体比等の分析結果と,放射性炭素年代結果を詳細に解析することで最終氷期以降の氷床棚氷の航海過程を復元し,Suganuma et al.,(2022)が報告したドロンイング・モードランドにおける最終氷期以降の氷床高度低下のきっかけとなるメカニズムの解析を進めた.さらにこの結果を国際共著論文としてまとめるべく,執筆を進めた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年6-7月にスペインのグラナダ大学に,2023年11-12月にはニュージーランドのVictoria University of Wellingtonにそれぞれ約1ヶ月間滞在し,Jimenz-Espejo博士とMcKay博士との共同研究を進めた.本年は第64次の南極地域観測事業で新たに採取されたリュツォホルム湾の海底堆積物を対象とした.とくに,一次記載・分析によって見出された棚氷崩壊を示す可能性のある試料に注目し,堆積物のX線CT画像や粒度の特徴,微化石群集と有孔虫の炭素・酸素同位体およびベリリウム同位体データと,放射性炭素年代値を吟味し,氷床・棚氷後退のタイミング,規模,および面的な広がりを詳しく解析した.この結果から,リュツォホルム湾では約9000年前に棚氷崩壊がおきたと結論づけ,この現象が周極深層水流入による底面融解によるものなのか,またMICIのような急激な氷床崩壊まで伴うものだったのかを検証し,国際共著論文を執筆している.また,棚氷崩壊とその背後にある氷床融解の時間差を求めるために,リュツォホルム湾東方露岩域から採取された岩石試料の表面露出年代試料の精製と,米国の加速器質量分析施設での同位体測定を実施した.
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今後の研究の推進方策 |
2024年度は,新たに共同研究者として追加したイギリス,ダラム大学のMike Bentley教授のもとと,2023年度と同様にニュージーランドのVictoria University of Wellingtonに滞在して,研究を進める予定である.とくに,昨年の海外滞在で取りまとめた急激な南極氷床融解プロセスの研究について,海水準変動の影響についての議論を進める.また,ニュージーランドでは,すでに大規模な棚氷崩壊が指摘されている西南極ロス海の海底堆積物に対して,その堆積物の特徴や微化石群集などのデータを取得する.また,新たにベリリウム同位体比測定を実施するための試料を分取し,滞在期間終了後に持ち帰り国内で測定を行う.その後,リュツォホルムとロス海で得られたデータとの比較を行い,各共同研究者と共有することで,棚氷・氷床後退復元のための指標の改良を進める.
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