研究課題
生物農薬に新規登録された捕食性天敵昆虫のタバコカスミカメは卓越した捕食能力を有する一方で、トマト果実への加害が報告されており、普及の大きな妨げになっている。これは本種の餌嗜好性や食欲に起因する問題であることから、基課題では、化学受容器や脳内情報処理に関わる因子を操作する技術開発を検討した。つぎの段階では、ゲノム編集による責任遺伝子の決定、遺伝系統の確立を計画しているが、昆虫の餌嗜好性や食欲に関する知見、化学受容器の操作に関する技術情報が乏しいため、困難に直面している。そこで、同様のテーマにおいてネッタイシマカを題材として研究し大きな成果を挙げている米国Columbia大学の研究グループと共同研究を行うことで突破口を開きたいと考えている。 ネッタイシマカで発見された摂食行動を調節する満腹センサー遺伝子の相同遺伝子を探索するため、まずタバコカスミカメの国内標準系統の全ゲノム解析を行っ た。長鎖ゲノムシーケンサーを使用した解析により、既報ゲノムよりも高水準かつ染色体スケールのゲノム解読に成功した。 米国へは2022年10月下旬より渡航し滞在のための準備を行い、同11月1日より共同研究を開始した。まずは、ネッタイシマカにおいて多数の系統を維持・管理する方法、ゲノム編集個体の選抜およびバイナリー発現システムの構築を習得するとともに、ネッタイシマカ・タバコカスミカメのいずれの種でも利用可能な、機械学習による摂食行動の評価システム開発を行った。行動評価システムは、滞在中に利用可能であった他種(ハマダラカ、イエカ種群) でもその有効性を確認した。
1: 当初の計画以上に進展している
1) 外国研究費の送金手続きに遅れが生じたこと、2) 本研究助成による滞在期間が当初よりも短縮されたことなど、滞在先機関と日本国内の所属機関事務手続き上の齟齬や手違いの解決に対して予想以上のエフォートが発生した。これらの困難を超える両機関のサポート、研究費の執行や滞在期間に関して柔軟に対応いただいたことで、乗り越えることができた。研究自体は、当初タバコカスミカメとネッタイシマカのみを対象とする研究計画であったが、その他の重要なベクター昆虫に関してもデータが取得でき、予定を超えて研究が進展した。一見すると当初計画以上に研究が進展した。しかしその背景には、研究自体の困難さはもちろんだが、考え方やアドミン業務体制が異なる機関双方の仕事の進め方の違いを理解しながらプロジェクトを進めていくことの困難さ、加えて、それを支えていただく両機関の手厚い支援があったことをここでは強調しておきたい。
本研究で滞在中に開発した、機械学習を用い高精度・高分解能にネッタイシマカの摂食行動を評価するシステムは、国際学会にて発表し、その後国際誌に発表予定である。このシステムは、帰国後に、タバコカスミカメにも適応し、本種のより詳細な摂食行動の解明に繋げていきたい。今後、異なる研究助成への応募を行い、本種のもつ特徴的な餌嗜好性(植物食性・動物食性)を実現する神経感覚基盤を明らかにするとともに、その成果を本種の天敵昆虫育種や利用に応用させることで、実社会へ還元を目指す。
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G3: Genes, Genomes, Genetics
巻: 14 ページ: jkad289