研究課題/領域番号 |
21KK0276
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
柴田 智博 信州大学, 医学部, 日本学術振興会特別研究員 (40795986)
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研究期間 (年度) |
2021 – 2023
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キーワード | TNBC / ER / 乳癌 / 内分泌治療薬 / 間質細胞 |
研究実績の概要 |
これまでにThe Cancer Genome Atlas(TCGA)データベースを駆使した検討により、乳癌のサブタイプの中で最も予後の悪いトリプルネガティブ乳癌(TNBC)患者で、乳癌のオンコプロテインの1つであるリン酸化YB-1発現が他のサブタイプの乳癌に比べ有意に増加していることを報告した。そこで、TNBCにおけるリン酸化YB-1の機能に着目し、YB-1リン酸化標的薬のTNBCに対する効果についてTNBC細胞株を用い検討を行った。その結果、YB-1リン酸化阻害によりYB-1リン酸化が抑制され、ERαの発現上昇とともに、内分泌治療薬に対する感受性が増強することを明らかにした。また、TNBC細胞におけるリン酸化YB-1によるERα発現制御メカニズムを検討した結果、リン酸化YB-1がERαタンパクを安定化させ発現を上昇させることを明らかにした。今年度のTNBC細胞株マウス同所移植腫瘍モデルを駆使した検討において、リン酸化YB-1阻害薬ががん細胞及び間質細胞のERα発現に影響することを観察している。しかし、腫瘍微小環境中のERα発現が上昇している細胞群及びその細胞におけるERαの機能については不明である。本年度内に米国Cedars-Sinai Medical Center(CSMC)におけるKenneth Bernstein研究室で研究を始めることが出来た。今後は間質細胞におけるリン酸化YB-1阻害薬によるERα発現上昇メカニズム及びその機能解明を目的として検討を進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マウス同所移植モデルによる検討において、YB-1リン酸化阻害薬はTNBC腫瘍の腫瘍増殖を抑制し、腫瘍内の癌細胞におけるERα発現が増加するとともに、間質細胞でのERα発現が上昇することを免疫組織化学染色により観察している。この結果は、動物実験においてもERα標的薬の併用が有用である可能性を示唆している。以上の結果は、当初の期待以上の結果であり、米国での国際共同研究による来年度以降のさらなる発展を期待している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、Bernstein教授の有する動物実験モデルを駆使し、微小環境に対するYB-1標的薬の作用メカニズムを明らかにする。具体的に、①マウス同所移植モデルを用い、リン酸化YB-1阻害薬による治療後の腫瘍を回収し、多重免疫染色によりERα発現細胞の同定を行う。さらに、セルソーティングにより各間質細胞を単離し、ERα発現の検討を行う。②CSMC免疫学分野のGibb博士はFACS解析において38色の抗体を同時に解析が可能であり、Gibb博士との共同研究を行うことで、腫瘍微小環境中の免疫細胞の割合及びその機能変化についてFACS解析により詳細に解析する。③Bernsteinラボではin vitroにおける間質細胞(血管内皮細胞、T細胞、B細胞、好中球、マクロファージ、線維芽細胞等)の単離、培養系を確立している。そこで、間質細胞に対するリン酸化YB-1標的薬の効果をin vitroにおいて検討を行い、マウス腫瘍内で観察されたERα発現上昇メカニズムとその機能について、サイトカイン産生能や増殖能など各細胞が示す活性化能を指標として評価を行う。 さらに、CCSMCバイオバンクの検体を駆使し、TNBC患者におけるリン酸化YB-1発現とERα発現との関連を解明する。①病理学分野のKhan博士と連携を図り、CSMCバイオバンクに保存されている化学療法による治療前後のトリプルネガティブ乳癌の凍結組織検体を用いリン酸化YB-1発現について検討を行う。②同時に、ERα発現を免疫組織化学染色により検討を行い、リン酸化YB-1発現との関連について明らかにする。
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