研究課題
研究代表者は昨年に引き続き、マサチューセッツ総合病院 Pancreatic research laboratory(以下、MGH)に在籍し、PDX(Patient-Derived Xenograft)マウスモデルを用いて、膵癌における骨格筋の低下に関する研究を継続している。膵癌の新鮮外科切除材料を免疫不全マウスへ皮下移植し、その遺伝子変異・発現を網羅解析し、現在まで約40種類のモデルに対し解析結果を得た。これらの結果から、癌組織・間質別にサブタイプを決定し、サブタイプに応じた膵癌に対する治療戦略を構築しつつある。治療効果はサブタイプに応じて明確に現れ、この成果を本年度の学会で発表した。治療終了のエンドポイントの際に骨格筋と血清を採取しており、モデルにより治療群と対照群の間で骨格筋量に差があるもの・ないものが存在していることが明らかとなった。腫瘍・間質への治療効果が交絡している可能性があるが、骨格筋の減少メカニズムを解き明かす上で重要なポイントであると考えられる。昨年と同様、骨格筋は遺伝子解析用と組織解析用にそれぞれ十分量の検体を保管している。In vitro実験では、エンドポイント時点で複数のPDXから新たに複数の初代細胞を樹立し、複数の細胞株の樹立に成功した。PDX実験と同様に遺伝子変異・発現の網羅解析を行っている。現在、これらの初代細胞を用いた共培養実験のため、網羅解析の結果をもとに細胞株の選定を行っている。基課題では、治療ターゲットなる分子のノックダウンにより、筋芽細胞の分化抑制を解除するデータが得られた。この結果は本年度学会発表を行っており、今後論文を完成させる予定であると同時に、上記PDX、初代細胞などのヒトモデルを用いて、この分子の骨格筋量減少に対する検証を進めていく予定である。
2: おおむね順調に進展している
骨格筋代謝に関しては、昨年度までは癌組織のExomeならびにTranscriptome解析を元にターゲット治療を検討してきた。本年度からは癌組織だけではなく、間質のデータも解析し、ターゲットとなる分子を検討している。すでに複数のPDXマウスモデルで、サブタイプ別に癌組織、間質それぞれをターゲットにした治療を行っており、現在までに6~7種類程度のマウスモデルに対してエンドポイント時点での骨格筋量を測定した。経時的な体重測定や腫瘍量の測定も行っており、具体的なデータを得つつある。現在、網羅的遺伝子発現解析の結果を元に、新規治療ターゲットの絞り込みを行っているが、骨格筋低下の程度は既存の癌組織・間質のサブタイプとは異なる可能性があり、骨格筋低下に寄与する複数の分子を組み合わせて検討する必要があると考えられる。また、初代細胞の樹立にも複数株で成功し、現在、共培養実験に向けて準備を進めている。本年度は実験規模の拡大と研究室内の既存のリソースの活用に主軸をおいていたが、来年度より日米双方で具体的な結果を出せるよう、実験を進める。また、MGH内外の研究者からアドバイスを得て、いくつかの新規解析手法や代謝経路などの分析も計画している。Single cell RNA-シーケンスの結果や様々な研究ネットワークを介して、より幅広く骨格筋量の減少に向けたメカニズム解析に目を向ける予定である。患者検体については、米国ではPDXの新規樹立、国内では切除不能膵癌患者の患者情報の収集を行い、血清とペアで検体・情報収集を継続している。基課題については、本年度、最終的な確認実験が終了し、現在学会発表と論文化にむけて準備を進めている。共同研究関係にあるMGHと日本の研究者を通して、有意義なディスカッションを進めており、新しい研究展開についても模索している。
来年度は研究計画年度の最終年となるため、具体的な成果にむけた実験を開始する。引き続きマウスのPDXからエンドポイント時点で骨格筋を回収し、組織学的な検討を行う。PDXを用いた実験は残り2~4モデル程度であり、来年度前半にはIn vivoの実験は終了予定である。組織学的な検討では免疫染色などで因子の発現量を確認すると同時に、保存してある骨格筋を用いた網羅解析の結果から、骨格筋量低下の因子を同定する。これらの結果をもとに、In vitroの実験で共培養を開始する。初代細胞の場合には、そのソースとなるPDXと遺伝子発現パターンが異なるため、共培養実験などを行う際には結果の解釈に注意する必要があると考えられる。そこで、初代細胞とPDXの間で、ターゲットとなる分子の発現量が近いものを選定する。共培養については、新規に樹立した細胞株を含めて6種類程度を検討する。共培養では、培養液内のターゲット分子をELISAなどで定量することも考慮する。ターゲット分子については、すでに阻害薬などを研究室内のリソースから入手しつつあり、これらを添加することで、骨格筋分化抑制が解除されることも確認する。国内(旭川医科大学)、国外(米国;マサチューセッツ総合病院)で膵癌の患者検体(血清)を臨床情報とともに収集しており、国内ではCTや骨格筋量との対比、米国ではPDXとの対比を行う予定である。基課題については、2024年5月に国際学会で発表しており、論文を執筆中である。また、ターゲット分子を中心に、代謝経路に着目した新しいプロジェクトを開始しつつある。日本国内でも新しい共同研究にある研究者のアドバイスを得る予定であり、また国外ではマサチューセッツ総合病院を中心に、その他の研究機関との共同研究も検討中である。
すべて 2024 2023 その他
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 6件) 備考 (1件) 産業財産権 (1件) (うち外国 1件)
Surg Endosc.
巻: 38 (4) ページ: 2297-2394
10.1007/s00464-024-10762-6.
Pancreas.
巻: - ページ: -
10.1097/MPA.0000000000002315
Internal Medicine
10.2169/internalmedicine.3194-23
VideoGIE
巻: 9 ページ: 107~114
10.1016/j.vgie.2023.10.010
Cancers (Basel)
巻: 15 (9) ページ: 2616
10.3390/cancers15092616.
https://www.boston-researchers.jp/lecture/2023.php