本研究は、う蝕、歯周疾患に次ぐ第三の歯科疾患である顎関節症を有する患者における顎機能障害に関する観察研究である。すなわち日本顎関節学会が定義する顎関節症の病態分類における顎関節症Ⅰ~Ⅳ型において顎機能障害を有する症例に対し、病因に応じた基本治療を適応し、顎運動異常の改善率および運動障害の改善様相を後ろ向きに検討する。 本年度は、東北大学病院咬合回復科に来院した顎関節症患者を対象とし、初診時の画像診査を実施した後に薬物療法、理学療法、運動療法、スプリント療法を適応した。そのうえで、治療開始時、1・3・6ヶ月にプロトコルを記録し各種機能検査を実施した。 下顎運動計測装置(Kavo ARCUS Digma)による下顎運動記録では、頭部にフェイスボウを装着した状態で下顎歯列にクラッチを装着して計測した。計測タスクは、開閉口運動、側方運動、下顎限界運動(前方ポッセルト、矢状ポッセルト)および咀嚼能力検査時の咀嚼運動である。取得した下顎運動データからは、被験者間で開口量、運動範囲、運動のスムーズさの違いが認められ、治療経過によって各々のパラメータに変化が認められた。特に顎関節症被験者のデータからは下顎運動の各種パラメータの改善が、程度の違いはあれ一定の割合で認められた。またグミ試験に基づく咀嚼能力検査の数値も治療経過によって変化する様相が認められた。こちらも下顎運動同様に顎関節症被験者においては治療がすすむにつれて改善していく傾向が認められた。次年度以降、取得した顎運動をインプットとした患者別ヒト筋骨格シミュレーションおよび主成分分析に基づく手統計学的分析により、顎関節や咀嚼筋の疼痛、関節雑音、開口障害ないし顎機能障害など、顎関節症症状との関連性を運動力学的に評価・検討する予定である。
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