本年度は、研究計画に基づいて患者別筋骨格解析手法の確立およびシミュレーション結果の分析を進めた。 解析においては、東北大学病院にて顎関節症治療を受けたの被験者およびコントロールとなる被験者の顎運動データを経時的に取得し、これによる動作定義によって被験者個々の関節の動きを生体シミュレーション上で再現した。具体的にはデータプロセシング後の運動データを筋骨格解析ソフトウェア(AnyBody)にインプットし、関節窩の形状を再現した拘束定義および、3次元空間における各コンポーネントの動作定義をし、ヒト下顎骨の左右側下顎頭の動きを再現する。以上により、患者個々の顎の動きを生体シミュレーション上で再現する解析手法を確立した。解析の結果から、臨床症状の認められる顎関節症症例では、患側・健常側における関節反力にて左右差が認められ治療の経過とともに変化していく様相が認められた。加えて、治療により関節窩における下顎頭の位置関係が変化し、それに伴って直線的・曲線的・二相性に運動経路が変化していく様相が見て取れた。 また、K-means法を用いた主成分分析法に基づいて、各被験者間における下顎運動の表現型に基づき運動特性を分析したところ、症状がある時点での動きと症状がない時点での動きを別のクラスターに分類することが可能であり、運動データに基づいた症状の分類がある程度の精度で可能であることが明らかになった。患者毎の治療経過における運動特性の変化を時系列で追うことができた。 本研究結果は、現存する検査のように、実際の運動や人間の咬む能力を把握するのみならず、生体内では測定することが難しい生体力学・運動学的パラメータの把握を可能とするもので、より効果的かつ詳細な顎機能評価へと繋がる可能性を秘めている。
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