研究課題
第1に、くらしと仕事に関する第1回調査(LOSEF)を実施し、その調査結果を分析した。そして、日本では、学校や大学を卒業した直後に正社員として入社した人(男性)の初職からの早期離職が年々増大しており、最近における若者の場合、その半数が初職入職後6年以内に初職企業から離職していたことを明らかにした。第2に、AIJ事件で明らかになったように、積立方式の年金は投資リスクが大きい。ちなみに、日本では積立不足や元本割れに苦悩している積立型年金が少なくない。賦課方式の年金を縮小・廃止し、それを積立方式の年金に切りかえても新たな難問が待ち構えている。第3に「孤立無業者(SNEP)」を新たに概念化した。孤立無業とは、20歳以上59歳以下の未婚無業者(在学中を除く)のうち、ふだんずっと一人か家族とのみ一緒にいる場合を指す。その実態を総務省統計局「社会生活基本調査」匿名データにより分析した。その結果、親世代による庇護がかえって子世代のSNEPの求職活動を抑制することを明らかにした。第4に、家族介護者に対する計量心理分析から、介護に対するマイナスの評価が大きいことよりも、むしろプラスの評価が小さいことが家族介護の病理を生む可能性があることを解明した。たとえば、義理の親に対しては主介護者のプラス評価が低い、配偶者に対しては時間とともにプラス評価が低下する、虐待のケースではプラスの評価が低いこと、等である。第5に、生活満足度は健康感とは異なり、短期的な所得の落ちこみには反応しないという一種のratchet effect(歯止め効果)を持つことが分かった。第6に、ダイナミック・マイクロシミュレーションモデルを用いて、高齢者貧困率の将来見通しを作成するとともに、その上昇要因(マクロ経済スライドと1980年以降の結婚・離婚行動の変化)を定量的に評価・分析した。
1: 当初の計画以上に進展している
当初の研究計画に記載した第1回LOSEFを計画どおりに実施しただけでなく、平成25年3月に卒業予定だった学生に対する調査を平成25年2月に実施するとともに、平成24年3月に卒業予定だった学生に対するフォローアップ調査も平成25年1月に実施した。さらに当初計画の趣旨(雇用と子育てに焦点をあてたパネルデータの構築・分析)を首尾よく達成するため、当初計画では具体的に記載しなかった調査(いわゆる団塊の世代を含む中高年層を対象にした年金ネット利用の「くらしと仕事に関する特別調査」)をLOSEFの一環として実施した。その結果、平成23年度に実施した30~49歳対象のインターネット調査と併せ、最長45年にわたる賃金稼得記録(行政記録の転記データ)を含むパネルデータを一挙に構築することが成就され、LOSEFの内実は当初計画を遙かに超えた長期的かつ包括的なものになった。このようなパネルデータ構築はパネルデータ研究面における日本の遅れを急速に取りもどす有力な契機の1つとなるだろう。次に、玄田を中心とする雇用班の若年就業に関する研究成果(「置換効果」および「世代効果」)は、既に国内外で共有された事実となり、班代表の玄田は、それらの功績が高く評価され、平成24年度日本経済学会・石川賞を受賞した。さらに、新たに問題提起した「孤立無業」の研究成果は既に内外の新聞などに広く取り上げられる一方、厚生労働省が全国160か所で委託している地域若者サポートステーションに送付され、若年世代の自立支援対策に活用されている。さらに、小椋班が本研究プロジェクトで特に力を注いできた家族介護者の介護負担感に関する研究では、計量心理学の手法をわが国の医療経済学に初めて導入し、介護に関するプラスとマイナスの評価を測るCRA指標の日本語版を開発するにいたった。
総じて当初の研究計画・方法に大きな変更はない。研究に一段と厚みを加え、その内容を深化させる。そのため、まず、当初の調査計画案を充実・飛躍させ、長期的かつ包括的パネルデータとなったLOSEFを組織メンバー全員が一丸となって継続・実施する。その中で、平成25年度には、ねんきんネット情報を転記してもらいつつ、雇用関連事項に焦点をあてた20歳代対象の特別調査を稲垣の協力を得ながら新たに実施する計画である。LOSEF調査結果の解析を継続させることは言うまでもない。さらに、大規模な第20回国際パネルデータコンファレンスを主催者として平成26年に東京で開催する。そして平成26年度には当初計画どおり第2回LOSEFを実施する。
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