研究課題/領域番号 |
22000006
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
長野 哲雄 東京大学, 薬学研究科(研究院), 教授 (20111552)
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研究分担者 |
平田 恭信 東京大学, 医学部附属病院, 准教授 (70167609)
花岡 健二郎 東京大学, 薬学研究科(研究院), 准教授 (70451854)
寺井 琢也 東京大学, 薬学研究科(研究院), 助教 (00508145)
上野 匡 東京大学, 薬学研究科(研究院), 助教 (60462660)
小松 徹 東京大学, 薬学研究科(研究院), 助教 (40599172)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 蛍光プローブ / 光増感剤 / MRI造影剤 / ケミカルバイオロジー / 分子イメージング / 臨床診断 / 化合物スクリーニング / 有機光化学 |
研究概要 |
交付申請書の実施計画に則り、本年度は以下の3項目に関して研究を行った他、生体内の低酸素領域(虚血部位など)の可視化を目指した可逆的蛍光プローブやMRI造影剤、プロテアーゼ活性を検出する赤色蛍光プローブ、など様々な光機能性分子の開発を行った。 ①癌や炎症をin vivoで検出可能な近赤外蛍光プローブの開発:マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)は、癌や炎症を初めとする様々な疾患との関連が指摘されている酵素である。我々は、蛍光団の細胞膜透過性やペプチド配列を適切に制御することにより、MMPとの反応後に大きな蛍光上昇を示すのみならず、反応後の蛍光分子が細胞内に効率よく留まることによって高感度にMMP高活性部位を可視化する新たなFRET型近赤外蛍光プローブを開発し、癌モデルマウスを用いたin vivoイメージングへと応用した。 ②創薬研究の効率化を目指した希土類発光プローブの開発:希土類錯体を利用した発光プローブは長い発光寿命を有するため、時間分解発光測定を利用することで、通常の蛍光プローブと比較して遥かに高いS/Nで標的分子を検出することが可能である。しかし、サンプル自体の吸光度が高い場合などは発光強度が減弱するため信頼性の高い測定が難しかった。そこで我々は、アンテナの吸収スペクトル変化に基づく新たなレシオ測定原理によりこの問題点を解決すべく研究を行った。そして、アルカリホスファターゼを標的とする発光プローブを開発し、マイクロプレート上で本測定原理の有用性を実証した。 ③蛍光プローブを用いた硫化水素の生理作用解析:近年、生体内でシグナル伝達分子としてはたらく可能性が示唆されている硫化水素の機能を解明すべく、その産生酵素である3MSTの阻害剤探索を行った。我々自身が開発した蛍光プローブを活用してスクリーニングを行うことで、細胞抽出液中でも機能する有用な化合物を見出すことに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究目的として設定した5項目(長波長蛍光プローブ、光増感剤、MRI造影剤、化合物スクリーニング、疾患マーカー検出)については、当初の計画以上に多くの成果が得られており、後述のように多数の論文発表(多くは国際一流紙)・学会発表を行っている。 更に、研究開始時点では予想していなかった興味深い知見や有用な光機能性分子も数多く獲得している。本年度の成果から一例を挙げると、我々は蛍光消光団QSY-21が系内の酸素濃度に依存した酸化還元反応によって可逆的に吸収スペクトルが変化することを見出し、これと蛍光団(Cy5)を組み合わせることによって、「低酸素環境下では蛍光強度が増大し、常酸素環境下に戻すことで素早く蛍光強度が減少する」という、これまでに無い特性を有する低酸素環境検出蛍光プローブの開発に成功した。またESRスペクトル測定から、QSY-21の低酸素環境下における還元反応生成物は一電子還元された炭素中心ラジカルであることも明らかにした。 本年度の成果からもう一つ例を挙げると、前年度までに我々が独自に開発した蛍光団である、酸素を珪素へと置換したフルオレセイン誘導体(TokyoMagenta)の性質を活用して新たな赤色カルシウムプローブを創生することに成功した。このプローブ(CaTM-2)は、ミトコンドリア等に集積する従来の赤色カルシウムプローブとは異なり細胞質に分散して存在し、細胞質のカルシウム濃度変化に応じて大きな蛍光強度変化を示すため、複数の蛍光色素を併用して細胞イメージングを行う際に非常に有用である。実際、本プローブに対する注目は大きく、25年度から市販される予定である。
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今後の研究の推進方策 |
珪素導入フルオレセイン類(TokyoMagenta)を初めとする長波長蛍光団を用いた蛍光プローブは、光の組織透過性に優れた波長領域を使用するため本研究の最終目標である医療への応用に適している。従って今後も、これらの蛍光分子を用いて癌や虚血などの疾患部位を可視化できる有用な蛍光プローブの開発を更に推進していきたい。 創薬研究への応用を目指したプローブについては、希土類錯体を基本骨格とすることで通常の蛍光プローブよりもS/Nに優れた評価系の開発ができることが分かった一方、こうしたプローブを現実の創薬研究へと応用するためにはターゲットに対する汎用性が課題と考えられる。そこで、多くの酵素反応に必要となる補酵素(NADH、ATPなど)を検出する長寿命発光プローブの開発を行うことによって、この問題点を解決していきたい。 また、当初の研究計画でも述べた「がん関連酵素により活性化される機能性光増感剤の開発」についても、現在までに一定の成果が得られているので、次年度は更に研究を発展させる予定である。 更に、「力学的刺激に応答する蛍光プローブの開発」や「非変性タンパク質電気泳動を用いた疾患マーカー酵素の活性検出」やなど、研究開始時点では全く想定していなかった光機能性分子の新たな制御メカニズムや利用方法に関する知見も得られつつあるので、こうした新しい研究についても注力していきたい。
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