研究実績の概要 |
最終年度である本年度は, 有機薄膜太陽電池の合理的設計に適した有機半導体化合物群の合成と基礎物性評価, および有機物の組織化構造のナノレベル解析手法から得られた知見を通して, 有機デバイス物性と分子物性の間を埋めるのに必要な学理を探究した. (1)有機固溶体の太陽電池への応用 : これまでほとんど研究対象とされてこなかった有機固溶体を用いた有機薄膜太陽電池を作製, 評価した. テトラベンゾポルフィリンとその類縁体CABPをある比で混合すると生成する有機固溶体について, それぞれの材料単独から得られる結晶とは異なる固体形態を高分解能走査電子顕微鏡(SEM)観察により明らかにした. この固溶体から作製した薄膜は長波長側に吸収を有し, 有機薄膜太陽電池として優れた性能を示す事を見いだした. (2)有機-有機界面の相分離機能解明 : 固体表面と分子の相互作用の強弱で結晶核形成を制御できることが明らかにした. 高分解能SEMを用いて, 固体表面上におけるポルフィリン誘導体の結晶成長機構を解析した結果, 有機半導体が核形成しやすい表面ではナノサイズ結晶が多数生成する一方で, グラフェンで被覆した中性の表面上では核形成はまばらに起こり, サブミクロンサイズのより大きな結晶の生成がみられた. (3)有機分子ワイヤの電子移動速度高速化 : 炭素架橋フェニレンビニレンの電子移動速度を評価した結果, 既存の分子ワイヤに比べて840倍程度も速くなることを発見した. この高速化の要因として, 電子的カップリングの寄与に加え, これまで有機分子ワイヤでは限られた条件下でのみ見られた「非弾性トンネリング」と呼ばれる非線形機構の寄与が示唆された. (4)低環境負荷型有機合成反応の開発 : 鉄触媒による炭素-水素結合活性化を鍵とした新規触媒反応として, sp2炭素の有機ホウ素化反応, 安価なハロゲン化物やトシル酸エステルを原料とした芳香族化合物のアルキル化反応などを開発した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究開始当初に設定した次の3つの目的 : (1)有機半導体の設計・合成および(2)分子組織体のナノレベル構造制御法を開発し, (3)高効率有機太陽電池実現に結実させる, についてはいずれも既に目標を達成している. 本年度成果に見られるように, 有機太陽電池の学理から新しい科学を生み出す段階に入っている.
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今後の研究の推進方策 |
本年度研究を進める中で, ペロブスカイト太陽電池開発過程で光検出デバイスの作成にフッ化物ポリマーを用いる事でデバイスの寿命を長くできるという新たな知見が得られた. 有機デバイスを構成する分子構造の年単位での寿命という従来の有機化学の範疇を超えた知見であり, 有機デバイスの学理を探るという本研究遂行上, この現象を見極めることは不可欠である. フッ化物ポリマーとペロブスカイトの組み合わせを探索することによって, デバイス寿命問題解決と新型太陽電池デバイスの開発に飛躍的な発展が期待できるため, 繰越期間において本研究を遂行する.
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