研究課題
複合系で重要な役割を果たす非共有結合相互作用の理論計算のため, RI(resolution-of-identify)法による補助関数を使った2次のM0ller-Plesset摂動(MP2)法の高並列化アルゴリズムを開発して来たが、本年度は、分子系の計算で広く用いられている6-31G(d, p)基底や6-311G(d, p)基底によるMP2計算に最適な補助関数を開発した。この補助関数は従来のものより高精度で、大規模分子の高速計算が可能である。遷移金属複合系の構造、結合、分子物性に関する研究では、最近報告されたNi(I)酸素錯体および類似のCo(I)やCu(I)の酸素錯体の結合と電子状態をLASPT2法で詳細に検討し、これまで信じられてきたC2v対称構造でなく、C1対称のsuperoxo型であることを解明し、原子間距離などと電子状態の相間を明らかにした。遷移金属と高周期典型元素のSbとの複合系の電子状態と結合性をDFT法で検討し、新しいセンサー機能の理論予測を行った。また、Cu2Auの3核錯体の発光スペクトルが有機分子の弱い配位により大きく変化する理由を、DFT法およびMP2法で励起状態構造と発光スペクトルの関連性を中心に検討し、解明した。触媒作用に関連して、Ni(O)-borane錯体による新しいH-H結合切断反応の描像を解明し、また、Mn存在下でNi(O)錯体を触媒として用いたクロロベンゼンの二酸化炭素によるカルボキシル化反応の特徴と反応機構を解明した。さらに、高周期典型元素ヒドリドが、錯体触媒反応と類似の素反応を行うにもかかわらず、触媒反応が報告されて居ないことから、これらの素反応過程の理論的研究を行い、どのようにすれば、触媒サイクルを構築出来るかの理論予測を行った。また、スズなどの高周期典型元素との相互作用により、鉄やルテニウムなどの遷移金属の原子間距離が従来のものよりはるかに短くなる化合物を理論予測して、ルテニウムの場合は実験でも実証した。二配位遷移金属化合物の構造と磁気的特性を明らかにした。また、遷移金属を内方するフラーレンの構造解明と機能化をおこなった。金クラスターのメタノール酸化反応について、高精度クラスター展開法を用いてDFT汎関数や摂動法による外挿法を評価した。アルミナに担持された銀クラスターの水素活性化のメカニズムを解明した。
1: 当初の計画以上に進展している
大規模系の高精度計算法の開発を順調に進めて来た。例えば、置換基有効ポテンシャル法やRI-MP2法の高速化などがそれらの成果に対応する。しかし、それ以外に、当初想定していなかったが、van der Waalsクラスターの高精度計算法を可能とする2段階計算法を開発し、また、分子性結晶の高精度計算を可能とするQM/MM法を開発した。応用面でも、着実に成果を上げており、当初は計画していなかったが、新しいσ結合活性化過程の解明や混合原子価化合物の溶媒中での振る舞いの解明などを達成した。以上から、当初の計画以上に進展していると考えている。
本年度は、本研究の最終年度であるので、これまで開発した研究方法を分子科学的に、また、基礎および応用化学的に興味の持たれる研究課題に適用し、成果を上げて行く。具体的な研究課題としては、分子科学、分子物性、材料化学的に興味の持たれている逆サンドイッチ錯体のスピン多重度と電子状態、構造の関連をCASPT2およびRASPT2法で解明する。また、我々が開発したQM/MM分子性結晶計算法を、分子性結晶内での金属錯体のスピン転移過程および発光性遷移金属錯体の励起状態構造と電子状態、発光スペクトルの関連を解明する。遷移金属複合系の反応過程や触媒メカニズムに関する研究としては、主に、DFT法を用いて、6結合活性化を経る二酸化炭素固定化反応、脱カルボニル化を経る複素環合成反応などの複雑な反応過程に遷移金属がどのように関与するか、を解明する。同時に、最近注目されている高周期典型元素化学種の触媒反応が遷移金属錯体のそれとどのように異なり、どのように類似しているのか、解明し、新しい触媒メカニズムを理論的に解明する。無限系や大規模系への展開として、Pdのナノシート化合物の構造と結合性、電子状態、機能を理論計算から解明する。また、MOF (metal-organic-framework)への二酸化炭素などの小分子の吸着過程について、周期境界条件を課した計算、クラスターモデル計算双方からアプローチし、吸着メカニズムを解明する。遷移金属複合系として、これまで、金属微粒子には研究を積極的に展開して来なかったが、金属微粒子と金属バルクとの関連、遷移金属錯体との関連は古くて新しい研究対象であり、未だに、理論的解明はなされていない。そのような方向にも、研究を展開する。特に、触媒作用、触媒メカニズムを微粒子、錯体間で比較し、特徴を解明したい。以上の研究を、共同研究者との密な討論を経て、実行する。実行に当たり、困難な点は無いと考えている。
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