研究課題
特別推進研究
動物はその恒常性を維持するため、毎日大量の細胞をアポトーシスにより死滅させる。この過程ではカスパーゼが活性化され、細胞内蛋白質を分解、細胞に死をもたらす。死細胞はphosphatidylserine (PS)をその表面に暴露し、マクロファージにより、認識・貪食・分解される。私達は昨年、細胞をCa2+-イオノフォアで処理すると細胞表面に一過的にPSが暴露されること見いだし、このことを利用してPSを強く暴露する細胞株を樹立した。そしてこの細胞より発現クローニング法によりCaに応答してPSを細胞表面に暴露させるscramblase、TMEM16Fの同定に成功した。この分子はTMEM16Fと呼ばれる膜貫通領域を8個持つ蛋白質であり、TMEM16Fを強制発現した細胞ではCa2+によるPSの暴露が促進され、TMEM16Fをノックダウンした細胞ではPSの暴露が抑制された。一方、この分子の409番のアミノ酸がアスパラギン酸からグリシンに変異した分子を発現する細胞はCa2+ イオノフォアによる処理なく、PSを露出した。すなわち、この細胞はアポトーシスに陥ることなくPSを露出していた。そこでこの細胞がマクロファージによって認識されるかどうか検討したところ、低温下ではマクロファージに結合するが37°Cで培養するとマクロファージには結合せず、貪食もされないことを見いだした。このことは死細胞の貪食にはPS単独では不十分であり別のシグナルが必要であることを示唆している。一方、私達は浮遊系の細胞にインテグリン、PS受容体 Tim4 を発現することにより死細胞の貪食系を再現した。そして、Tim4は死細胞との結合に関与しているがこの分子のみでは貪食はおこらず、貪食にはインテグリンの関与が必須であることを見いだした。
2: おおむね順調に進展している
本研究は「アポトーシス細胞の貪食と分解の分子機構」を明らかにすることを目的に進めている。昨年度同定したCa2+ 依存リン脂質スクランブラーゼ (TMEM16F) のD409G 変異体は構成的に活性があり、その変異体を発現する細胞はPSを構成的にその表面に暴露する。今年度はこのPSを構成的に暴露する細胞はマクロファージに低温で結合するが、貪食されないことを見いだした。”eat me”シグナルとしてはPS 単独で十分であると考えられたこの分野のドグマを修正する発見である。一方、アポトーシス細胞の貪食に関与する分子としては、これまでに数多くの分子が提唱されたがそれらがどのように作用して貪食過程を担っているか不明であった。今回の私達の発見、アポトーシス細胞の貪食は2段階で進行し、PS受容体Tim4は死細胞の結合過程、インテグリンはその後の貪食過程に関与しているとの結果はこの過程を解析する上で重要な発見である。また、浮遊細胞を用いて死細胞の貪食に成功したことは今後、貪食過程に必要な分子を同定する上で、重要なassay系を提供することとなった。
アポトーシス細胞のマクロファージによる貪食は死細胞上に暴露されるPSをマスクすると阻害される。このことからPSは ”eat me” として必須と考えられる。今回、その貪食にPS単独では十分でないことが示された。それではPS以外にどのような分子がこの過程に必要であるかその同定が必須である。一方、私達はCa2+ に依存してPSを細胞膜の内側から外側に暴露させる分子として、TMEM16Fを同定したが、この分子がアポトーシス時のPS の暴露にも関与しているかどうか不明である。そのことを早急に明らかにした上で、もしこの分子がアポトーシスに関与していないのであれば、アポトーシス時にPS暴露に関与する因子を同定する必要があろう。一方、アポトーシス細胞の貪食には私達が同定したTim-4, MFG-E8/インテグリン 以外にMER と呼ばれるチロシンキナーゼ型受容体やBAI1と呼ばれる7回膜受容体が報告されている。今回樹立した浮遊細胞株を用いた貪食系を用いてこれら分子の関与を明らかにすることも計画している。
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