研究課題
アポトーシスではカスパーゼが活性化され、細胞内蛋白質を分解、細胞に死をもたらす。死細胞はフォスファチジルセリン (PtdSer)をその表面に暴露し、マクロファージにより、認識・貪食・分解される。私達はこれまでにアポトーシス細胞に暴露されるPtdSerに結合し、マクロファージによる死細胞の貪食を促進する2個の分子(MFG-E8とTim-4)を同定した。MFG-E8はチオグリコレートで誘導した腹腔マクロファージ、Tim-4は腹腔に元来存在するマクロファージに発現されていた。そこで、これら遺伝子のノックアウトマウスを作製し、それぞれ、チオグリコレートで誘導した腹腔マクロファージ、腹腔在住マクロファージによる死細胞の貪食に必須であることを示した。また、MFG-E8、Tim-4遺伝子両者を欠損したマウスはそれら遺伝子の単独のノックアウトマウスと異なり、B6 マウス系統でもヒトのSLEに似た自己免疫疾患を発症し、その症状はヒトのSLEと同じように腫瘍壊死因子(TNF)により抑制され、インターフェロン(IFN)により促進された。このことはSLEタイプの自己免疫疾患が死細胞の貪食異常でおこる可能性を示唆するとともに、MFG-E8、Tim-4遺伝子欠損マウスがヒトSLEのよいモデル動物になることを示している。ところで、動物の発生過程でのアポトーシスにはApaf-1およびカスパーゼ9の関与が知られている。私達はDNase II遺伝子を欠損したマウスを用いて、発生過程でのプログラム死におけるApaf-1の影響を解析した。その結果は、発生過程でおこる大部分のプログラム細胞死はApaf-1に依存しているのに対し、胎仔胸腺でのアポトーシスにはApaf-1を必要としないことを見いだした。実際、キナーゼ阻害剤スタウロスポリンによる胎仔胸腺細胞のアポトーシスはApaf-1やカスパーゼ9に依存しなかった。
2: おおむね順調に進展している
本研究は「アポトーシス細胞の貪食と分解の分子機構」を明らかにすることを目的に進めている。これまでにアポトーシス細胞の貪食に関与する2個の分子(MFG-E8、Tim-4)を同定してきたが、今回、これら遺伝子のノックアウトマウスを作製、これらの分子が実際マクロファージによる死細胞貪食に必須であること、その欠損はヒトのSLEに相似した自己免疫疾患を発症させることを見いだした。この結果は本研究の課題の一つが達成されたことを示している。一方、これまでにDNase II遺伝子ノックアウトマウスを作製し、このマウスではマクロファージが活性化され種々の炎症性サイトカインを産生、貧血や関節炎を引き起こすことを報告してきた。今回、このマウスを用いて、プログラム細胞死にこれまで考えられていたApaf-1、カスパーゼ9によっておこる細胞死とは別に、カスパーゼ9、Apaf-1に関与しない経路が存在することを見いだすことができた。このことは、期待以上の成果である。
これまでの研究からアポトーシス細胞は PtdSer を暴露、マクロファージはこのPtdSerを“eat me” シグナルとして認識し、死細胞を貪食することが明らかとなった。それではPtdSerはどのようにしてアポトーシス細胞の表面に暴露されるのであろうか。この過程にはリン脂質スクランブラーゼと呼ばれる酵素の関与が示唆されているがその実体は明らかではない。その分子の同定を試みる。PtdSerを認識する分子として私達が同定したMFG-E8、Tim-4ばかりでなくMerTK と呼ばれるチロシンキナーゼ型受容体、BAI1とよばれるG-protein-coupled receptor も報告されている。これら分子は死細胞の貪食にどのように関与しているのであろうか。MFG-E8とTim-4のようにこれら分子は違うマクロファージが発現し、おのおの独立に貪食に関与しているのであろうか。あるいは一個のマクロファージで協調的に作用するのであろうか。本来、死細胞を貪食しない細胞を用いて死細胞の貪食過程の再構成を試み検討する。ところで、赤血球はその成熟過程で核を放出する。この際、放出された核はPtdSerを暴露し、PtdSerに依存してマクロファージによって貪食される。それではマクロファージはどのような分子を用いて核を貪食するのであろうか。アポトーシス細胞と同等の分子を用いているかどうかなど、検討する。アポトーシス、死細胞の貪食は炎症をともなわない静かな現象と考えられている。このことを説明する現象として、死細胞を貪食するマクロファージは抗炎症性サイトカインを分泌すると考えられている。それだけであろうか。死細胞から、何らかの分子が放出される可能性はないであろうか。アポトーシス細胞の培養液がマクロファージで何らかの遺伝子の発現を誘導しないかなど検討する。
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