研究課題
アポトーシスではカスパーゼが活性化され、死細胞はフォスファチジルセリン(PtdSer)をその表面に暴露する。マクロファージはこのPtdSerを"eat me"シグナルと認識し、これを貪食・分解する。これまでにPtdSerに結合し、マクロファージによる死細胞の貪食を促進する分子として数多くの分子が報告されているが、その関係は明らかでない。それら分子のうち、Tim-4と受容体型チロシンキナーゼMerTKをともに発現するマウス腹腔マクロファージは強い貪食能を持つこと、死細胞の貪食には両分子がともに必要なことを見いだした。Tim4はアポトーシス細胞を結合する過程、MerTKは貪食の過程に必要であった。ところで、赤血球は骨髄や脾臓に存在する赤芽島で増殖分化する。そして、その最終過程では、核が細胞膜に囲まれた形(pyrenocytesと呼ばれている)で放出され、PtdSerを暴露、赤芽島の中央に存在するマクロファージによって貪食される。私達はこの過程をin vitroで再現することに成功し、MerTKがPtdSerを介したpyrenocytesの貪食に必須であることを示した。ところで、本来細胞膜の内側に存在するPtdSerはどのようにして細胞の外側に暴露されるのであろうか。私達は以前、活性化された血小板でPtdSerの暴露を引き起こすスクランブラーゼTMEM16Fの同定に成功したが、この分子は10個のメンバーからなるファミリーの一員である。そこで、TMEM16ファミリーメンバーをTMEM16F欠損細胞に導入し、16F以外に16C, 16D, 16G, 16JにCa2+に応答してリン脂質をスクランブルさせる能力が存在することを認めた。一方、私達は新たにXkr8と呼ばれる6回膜貫通領域を持つタンパク質をアポトーシス時に活性化されるスクランブラーゼとして同定した。
1: 当初の計画以上に進展している
私達はマクロファージによるアポトーシス細胞貪食の分子機構を明らかにしようとしているが、今回、少なくともマウスの腹腔在中マクロファージはTim-4、MerTKと呼ばれるPtdSerに結合する分子を協調的に用いて死細胞を貪食することが明らかになった。一方、死細胞と同様にPtdSerを暴露しマクロファージに認識・貪食される赤血球の核はMerTKのみで貪食がおこり、Tim-4を必要としなかった。予期せぬ結果である。一方、アポトーシス時のPtdSerの暴露に関与する分子は長い間不明であった。今回その分子を同定できたことは期待以上の成果である。
今回、アポトーシス細胞の貪食ではTim-4とMerTKが協調して作用することが示された。それではどのような分子機構がこの協調作用をもたらしているのであろうか。Tim-4とMerTKが複合体を形成する可能性を含めて検討する。また、アポトーシス細胞の貪食に際してMerTKはチロシンキナーゼとして活性化される。そこで、その標的タンパク質を同定し、貪食のシグナル伝達機構の解析も計画する。一方、胸腺や肝臓、脳に存在する貪食細胞(Kupffer cells, Microgliaなど)がどのような分子を用いてアポトーシス細胞を認識貪食するか、腹腔マクロファージと同様にTim-4やMerTKが必要であるかどうかなど解析する。ところで、今回アポトーシス時に活性化されるリン脂質スクランブラーゼXkr8はXK-related proteinファミリーの一員である。このファミリーは8個のメンバーからなっている。それでは、このメンバーの中にアポトーシス時にスクランブラーゼ活性を持つ分子が存在するかどうか検討する。健康な細胞では細胞膜のリン脂質は外膜と内膜の間で非対称に分布しており、フォスファチジルセリンやフォスファチジルエタノールアミンは細胞の内側に存在する。それでは、この細胞膜の非対称性はどのようにして維持されているのであろうか。P4-type ATPaseがフリッパーゼ、フォスファチジルセリンやフォスファチジルエタノールアミンを細胞膜の外側から内側へ動かす役割をになっていると考えられているがその実体は不明である。そこでこの分子の同定を試みる。
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