研究課題
アポトーシスではカスパーゼが活性化され、死細胞はフォスファチジルセリン(PtdSer)をその表面に暴露する。マクロファージはこのPtdSerを“eat me”シグナルと認識し、これを貪食・分解する。本来細胞膜の内側に存在するPtdSerはどのようにして細胞の外側に暴露されるのであろうか。私達は昨年度、Xkr8と呼ばれる6回膜貫通領域を持つタンパク質をアポトーシス時に活性化されるスクランブラーゼとして同定した。ヒトやマウスのXkrファミリーは9個のメンバーから成り立っているが、これらそれぞれをXkr8欠損細胞株に導入することにより、Xkr8以外にXkr4、Xkr9がカスパーゼによって活性化されるスクランブラーゼであることを見いだした。Xkr8が普遍的に様々な組織で発現されているのに対し、Xkr4は脳、Xkr9は胃や腸に特異的に発現されていた。一方、ヒトハプロイド細胞株KBM7細胞に、レテロウイルスを用いて網羅的に変異を導入、フリッパーゼ活性(蛍光で標識されたPtdSerを取り込む活性)が減弱した細胞株を樹立、この細胞でのレテロウイルス導入部位を次世代シークエンス法で同定、P4-タイプのATPaseであるATP11CとそのシャペロンCDC50Aをフリッパーゼとして同定した。この分子の中央部には3カ所のカスパーゼ認識配列が存在し、アポトーシス時に切断、失活した。すなわち、アポトーシス時にフリッパーゼであるATP11Cはカスパーゼにより失活、スクランブラーゼであるXkr8はカスパーゼにより切断されることにより活性化されることが明らかになった。ところで、アポトーシス細胞はATPやUTPなどのヌクレオチドを分泌、これがマクロファージなどの貪食細胞をリクルートすると報告されている。ところでアポトーシス細胞の貪食は炎症を惹起しないと報告されているが、細胞外に放出されたATPやUTPは炎症を引き起こすことが知られている。そこで、アポトーシス細胞の上清を用いてマクロファージを処理すると、抗炎症性の遺伝子の発現が認められた。そこで、アポトーシス細胞上清をメタボローム解析することにより、大量のAMPがカスパーゼによって開口したパネキシンチャネルを介して放出されること、AMPはマクロファージ上のヌクレアーゼによってアデノシンに変換、この分子がアデノシン受容体に作用することにより、抗炎症作用を発揮していることを見いだした。
1: 当初の計画以上に進展している
私達はマクロファージによるアポトーシス細胞貪食の分子機構を明らかにしようとしている。死細胞はPtdSerを暴露し、この分子がマクロファージに対して“eat me”シグナルとして作用するが、今回、フリッパーゼを同定することにより、この過程の全容(カスパーゼによるスクランブラーゼの活性化とフリッパーゼの失活)が明らかになったことは期待以上の成果である。また、アポトーシス細胞からAMPがカスパーゼ依存的に放出され、これがアデノシンに変換後、抗炎症作用を示すこともアポトーシス、その貪食過程と炎症反応の側面から理解する上で、重要な発見と考えている。
今回、Xkrファミリーの一つXkr4がカスパーゼによって切断、スクランブラーゼの活性をもつことを見いだした。それでは、この分子は脳でどのような生理作用をもっているのであろうか。脳では生後間もなく、大量の神経細胞がアポトーシスにより死滅するが、その後は殆ど死滅しない。一方、神経ネットワークは絶えず再編成されており、この再編成過程では軸索は剪定(Pruning)され、剪定された軸索はミクログリアによって貪食されると考えられているがその分子機構は殆ど解明されていない。Xkr4によるPtdSerの暴露が剪定された軸索の貪食過程に関与している可能性はないであろうか。マウスXkr4に対するモノクローナル抗体を作製し、Xkr4が神経細胞似発現しているかどうか、確認するとともに、Xkr4遺伝子のノックアウトマウスを樹立し、剪定された軸索がミクログリアにより正常に貪食されているかどうか解析する予定である。アポトーシス細胞が貪食されないとSLE(systemic lupus erythematosus)に似た自己免疫疾患を発症する可能性が報告されている。アポトーシス時のリン脂質スクランブラーゼとして作用し、“eat me”シグナルの提示に必須のXkr8遺伝子をノックアウトしたマウスは自己免疫疾患を発症するであろうか。Xkr8遺伝子ノックアウトマウスをMRL、Balb/c、DBAなどいくつかのマウスバックグラウンドで作製し、自己免疫疾患が発症するかどうか検討する必要があろう。ATP11Cを欠損したマウスリンパ腫細胞では80%近くのフリッパーゼ活性が喪失することから、この細胞でフリッパーゼとして作用する分子は主にATP11Cと考えられる。一方、ATP11Cが属するP4-タイプATPaseには14個のメンバーが存在する。これらのメンバーが細胞膜においてフリッパーゼとして作用するかどうか、ATP11C欠損細胞に14種のP4-タイプATPaseを発現させて検討する必要があろう。また、これら分子とGFPとのキメラ分子を動物細胞で発現させ、これら分子の細胞内局在を明らかにする予定である。
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