研究課題
動物細胞の細胞膜(plasma membrane)は外層、内層の2層から成り立っており、細胞膜を構成しているリン脂質は外層と内層の間で非対称的に分布している。すなわち、フォスファチジルセリン(PtdSer)やフォスファチジルエタノールアミン(PtdEtn)はほぼその全てが内膜に局在する。この非対称性はエネルギーに依存し、PtdSerやPtdEtnを特異的に外膜から内膜へ転移させる酵素(フリッパーゼ)によって担われていると考えられていたが、その実体は長い間明らかでなかった。私たちは昨年の本研究でATP11Cと呼ばれるP4タイプATPaseが、そのシャペロンCDC50Aとともに細胞膜においてフリッパーゼの活性に必須であることを報告した。ヒトのゲノムには14種のP4-ATPaseが存在する。本年度は、これら全てをそれぞれ、ATP11C欠損細胞に発現させることにより、ATP11C以外にATP8A2、ATP11Aがフリッパーゼ活性を持つこと、ATP11A及びATP11Cは様々な細胞で普遍的に発現しているが、ATP8A2は脳特異的であり、本来のフリッパーゼとしての作用以外の生理作用を持つ可能性を示唆した。ところで、細胞がアポトーシスに陥ったとき、あるいは血小板などで細胞が活性化された際、細胞膜の非対称性は崩壊し、PtdSerが細胞表面に暴露され、マクロファージに対する貪食のシグナル、あるいは血液凝固因子の活性化分子として作用する。この細胞膜の非対称性の崩壊にはリン脂質を両方向に非特異的にスクランブルさせるスクランブラーゼの関与が考えられていたが、私達は数年前、この過程に関与し、Ca2+によって活性化されるスクランブラーゼTMEM16Fを同定した。今回、TMEM16Fマウス遺伝子を血小板特異的にノックアウトしたところ、活性化した血小板はPtdSerの暴露を起こらないこと、その血小板は血液凝固を媒介するスロンビンの産生能が減少していることを見出した。実際、in vivoにおいてもTMEM16F欠損血小板は凝集する能力が減弱していた。ところで、TMEM16ファミリーに属する10個のメンバーのうちTMEM16EはTMEM16Fと相同性が高いが、小胞体に局在し、その機能は不明であった。今回、TMEM16EのIVとV番目の細胞膜貫通領域にまたがる35個のアミノ酸がTMEM16Fと顕著な相同性を持つことから、この部分を本来スクランブラーゼ活性を持たないTMEM16Aの対応する部分と置換したところ、このキメラ分子は細胞膜に局在し、リン脂質スクランブラーゼ活性を示した。以上の結果はTMEM16Fは小胞体で作用するスクランブラーゼの可能性を示唆している。
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