研究概要 |
免疫細胞を持たない植物は,全身の細胞が外敵から個体を守るための仕組みをもつ必要がある.このために植物は,全ての細胞が備えもっている液胞や小胞体を,外敵の種類に応じて巧みに使い分けているという新しい概念が生まれてきた。本研究課題の一つとして,感染ストレス下での小胞体のダイナミックな動態を把握することを目的として,傷害ストレス依存的に小胞体から誘導される構造体(ER ボディと命名)の形成機構と生体防御系としての実体解明の研究を行っている.ER ボディは内部にβ-glucosidase(PYK10)を大量に蓄積している.昨年度までの研究から,PYK10がミロシナーゼとしての機能を持つことが分かった.従って,ER ボディ系が,植物の地下部(根)における生体防御(ミロシナーゼーグルコシノレート系)のkey playerである可能性が浮上した.この成果を受けて,様々な病原菌や共生菌感染に対する効果を調べた、その中に今回遅れてドイツより入手した2種類の菌(糸状菌Pythium sylvaticumstrain DSM2322と共生菌Piriformospora indica)が含まれる.その結果,P.indicaにより,シロイヌナズナのER ボディが消失することが確認でき,ER ボディの感染応答の実験系の確立を行った.一方,P.sylvaticumstrainは感染力が強いことが原因で5現時点で実験系の確立まで至っていない.この他にも入手可能な菌感染の実験系の確立を行った.植物の生体防御研究の多くは,地上部(葉や果実)で行われてさており,地下部での防御機構に関する知見は乏しい.上記の実験系の確立により,ER ボディによって駆動される根の感染防御系の解明に貢献できた.
|