研究概要 |
本研究は,細胞内膜系の動態という新しい視点から「植物の生存戦略」の理解を目指すことを目的としている.感染および環境ストレスに応じた細胞内膜系の動態に着目し下記の成果を得た. 1.感染ストレス応答:「液胞系」と「小胞体系」に注目して研究を実施した.独自に開発した小胞輸送変異体ライブラリー(GFS)から,菌感染応答異常を示す変異体を複数選抜・解析した.その結果,GFS11は,非病原性菌感染におけるサリチル酸シグナル伝達に関わること(論文準備中),GFS4,GFS5,GFS6は複合体を形成して感染応答に関わること,GFS12はkinaseドメインをもつ機能未知のタンパク質で基礎的抵抗性に関わることが分かった.また,非病原性菌感染直後の膜融合過程を解析するために,エフェクターを誘導性プロモータ依存的に発現する形質転換植物に各種可視化マーカーを導入し,過敏感反応による細胞内膜系および細胞骨格系動態をリアルタイムで観察することに成功した.一方,小胞体から派生する構造体の解析からは,新規の抗カビ物質の生産系の発見(論文投稿中)およびERボディ依存的な根圏微生物に対する防御機構の発見があった. 2.環境ストレス応答:「細胞骨格」と「細胞間シグナルの分泌系」に注目して研究を実施した.ミオシンXIK依存的な小胞体流動(昨年の成果)と他のオルガネラの運動解析から,仮説「原形質流動の駆動力が小胞体上のミオシンである」を裏付けることができた.ミオシンXIの多重欠損変異体の解析から,重力および光に対する屈性反応に,ミオシンXIがアクチンと協調してブレーキとして働き,植物の屈性反応の微調整を担っているという興味深い発見があった.また,昨年に発見した分泌性シグナルstomagenが,光に応答して光合成組織で合成・分泌され,原表皮細胞の運命決定を担っているという機構が見えてきた.
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今後の研究の推進方策 |
前年度までに得られた成果の中には,予想外の発見や進展もあった.特に,興味深い発見については,集中して解析を進めると同時に,今後は,これらの成果を集約し,論文としてまとめる作業も平行して行う予定である.
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