研究概要 |
本研究の目的は, 小胞輸送系を含む細胞内膜系の動態という視点から, 植物の感染防御応答や環境ストレス応答を解析し, 細胞から個体レベルでの「植物の生存戦略」の理解を目指すことである. 当該年度の具体的な成果は下記の通りである. (1)植物の小胞輸送系としては, AP1 (Teh et al., 2031), AP2 (Yamaoka et al., 2013), MAG2とMIPs (Li et al., 2013), MAG5 (Takagi et al., 2013), COV1 (Shirakawa et al., 2013)の解析結果を論文として発表した. 一方, 独自に選抜した非病原性菌の感染抵抗性不全変異体の解析から, 小胞輸送関連分子GFS3/GFS12, GFS4, GFS5, GFS6, GFS11の感染応答における働きを明らかにした. 特にGFS11は, 細胞内のレドックス制御を介して全身獲得性抵抗に関わる興味深い因子であることが分かった. 次年度も継続する. (2)葉のオイルボディが, 真菌感染時に抗菌物質生産工場として働く事を初めて明らかにした(Shimada et al., 2013 ; F1000Primeに選抜). また, 種子の感染防御であるムシレージの放出機構を解明した(Kunieda et al., 2013). 外敵に対する忌避物質生産系としてのミロシン細胞の分化機構を解明した(論文準備中). また, 小胞体由来ERボディの酵素がミロシナーゼとして機能することを証明するとともに, ERボディ系の獲得について進化的側面から解析した(論文準備中). (3)小胞体ネットワーク形成にモータタンパク質ミオシンXI-kが必要である事および小胞体膜タンパク質のリン酸化が膜融合を促進する事を明らかにするとともに, 同じfamilyに属するミオシンXIが植物の屈性運動を調整している事を見いだした. また, ミオシンXI-iが, 核外膜タンパク質と結合し, 核の暗定位運動に寄与する事を初めて証明した(Tamura et al., 2013).
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
独自に確立した複数の小胞輸送不全変異体gfs (green fluorescent seed)およびmag (maigo)の原因遺伝子の同定と機能解析により, 植物の小胞輸送系の理解が進んだ. 細胞内膜系による感染防御応答の研究では, これまで知られていなかった葉のオイルボディの機能を明らかにした論文が, 生命科学の優れた論文に与えられるF1000Primeに選抜された. また, 植物特有の核と細胞質を繋ぐリンカー・モータの発見は, 中日新聞や京都新聞に紹介記事が掲載された. 従って, 当該年度の研究は当初の予定通り順調に進める事ができたと考える.
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度は, 本研究課題の最終年度に当たることから, 細胞内膜系のorganizationとdynamicsそのものを支えている分子機構の解明を目指し, これを基盤とする植物の細胞応答について研究を進めたい. 具体的には, 小胞体ネットワーク形成機構や細胞核の形態形成や運動の機構を明らかにする. また, 細胞内膜系による細胞応答の研究としては, これまで解明されてこなかった植物の全身獲得生抵抗の分子機構を明らかにする事と植物の基本的な生理現象である屈性に新しい観点を提供する事を目指す. これまでに得られた研究成果をさらに確実なものとして順次論文として発表することも一つの目標としている.
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