研究実績の概要 |
免疫細胞を持たない植物は, 全身の細胞が外敵や環境ストレスから個体を守るための仕組みをもつ必要がある. 本研究の目的は, 小胞輸送系を含む細胞内膜系の動態という視点から, 植物の感染防御応答や環境ストレス応答を解析し, 細胞から個体レベルでの「植物の生存戦略」の理解を目指すことである. 当該年度の具体的な成果は下記の通りである. (1) 病害虫応答制御系では, 地上部での食植生昆虫からの防御系を担うミロシン細胞が, 葉の維管束に沿って配備されることを証明した. 植物のライフラインというべき組織を重点的に防御する戦略と位置づけられる. 予想外の成果としては, ミロシン細胞の分化が, 表皮組織の気孔(孔辺細胞)の分化マスター遺伝子として知られているFAMAによって制御されていることが分かった. 両細胞は, 形態も機能も分布域も全く異なるにも関わらず, 葉の原基からの分化の段階で共通の経路を辿ることは興味深い現象と言える. (2) これまで細胞内膜系の動態の駆動力となっているミオシンモーターに注目して研究を推進し, 小胞体流動や細胞核の運動の分子機構を明らかにしてきた. シロイヌナズナのMyosin XI classには13メンバーが存在する. これらのメンバーの多重欠損変異体の表現型の解析から, 今年度は, 植物の基本的な成長原理に迫る発見があった. Myosin XIが欠損すると植物体は真直ぐに成長できない. また, Myosin XI欠損変異体の様々な器官は光や重力等の刺激に対して過剰に応答することが分かった. 植物が光や重力等の環境刺激に応答して屈性反応を起こすことは良く知られている. この屈性は器官の屈曲を伴うが, Myosin XIはこの屈曲のブレーキとして働いていることが分かった. 本成果はNature Plants誌の2015年4月号の表紙を飾るとともにウエブサイトのトップページで「Reach for the sky」のタイトルで紹介された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当該年度は本特別推進研究の最終年度にあたり, 細胞内膜系のorganizationとdynamicsそのものを支えている分子機構の解明を目指してきたが, これを基盤とする植物の細胞応答について当初の目的はほぼ達成できたと考える. また, 上記の通り, 予想外の成果も得ることができた. 特に, 病害虫応答制御系では, 周囲の細胞とは異なる特殊な細胞(異型細胞)を作り出す機構の存在を示すことができ, 環境応答系としては, 「植物の器官が真直ぐに伸びる」という概念(Straightening)に迫る「Actin-Myosin XI依存的なStraightening機構」の発見ができた. 器官屈曲の感知(深部感覚)にも繋がり, 植物の器官の屈性応答研究にブレークスルーを与えることができたと考える.
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今後の研究の推進方策 |
本特別推進研究により, 「11. 現在までの達成度」に記載の通り, 植物の成長原理に迫る課題が浮上してきた. 特別推進研究としては, 現在取得している未発表データについて, 残された研究を実施し成果を確実なものとして論文発表する. 一方, 将来的には, これらの課題の解明に向けて新たな研究を展開する.
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