研究課題/領域番号 |
22220004
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
村上 富士夫 大阪大学, 生命機能研究科, 教授 (20089882)
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研究分担者 |
田辺 康人 大阪大学, 生命機能研究科, 准教授 (10311309)
宋 文杰 熊本大学, その他の研究科, 教授 (90216573)
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研究期間 (年度) |
2010-05-31 – 2015-03-31
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キーワード | 電気穿孔法 / 移動能 / 内在的制御 / GAD67-GFPマウス |
研究概要 |
我々のこれまでの研究により介在ニューロンは、皮質に到達後皮質板を通り抜けて辺縁帯(MZ)に移動し、MZ で全ての方向に移動することが明らかになった(Tanaka et al., 2003;2006;2009)。またこれらの細胞のMZでの滞留は2日間にも及び、その間ランダムウォーク様の動きをする(Tanaka et al., 2009)。その後、これらのニューロンは皮質板に下降して、最終位置へと到達する。それに伴って介在ニューロンは移動を停止させる必要があるが、そのメカニズムはほとんどわかっていなかった。我々はこの問題に取り組むため、GAD67-GFPマウスの解離培養系と2連子宮内電気穿孔法(発生の異なる時期に同じ胎仔に2度続けて遺伝し導入をおこなう)で標識された誕生時期の異なる細胞を同一の条件下で、尚かつin vivoに極めて近い標本で観察するという方法とを組みあわせて、発生の進行に伴う細胞の移動能の低下が如何なる要因によって制御されているかを検討した。その結果、外来の分泌成因子の他に細胞内在的な制御が重要な役割を果たしていることが判明した(Inamura et al., 2012)。神経細胞の移動能の制御のメカニズムに関する研究はこれまでにもあったが、それは全て解離培養系を用いたものであり、非生理的な条件に置かれた結果を観察している可能性が否定出来なかった。それに比べ本研究の結果は生まれた時期の異なる神経細胞の動きを同一のin vivoに近い条件で比較したものであり、その信頼性は極めて高い。介在ニューロンを用いて得られたこの結果は他の神経細胞の移動能の制御にも広く当てはまるものであると考えられ、その意義は極めて大きい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
皮質板への下降の前段階で起こる、移動能の低下のメカニズムを世界で初めて明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
我々は皮質抑制性介在ニューロン(IN)を標識する方法として子宮内電気穿孔法を開発してきた。この方法は野生型のマウスをそのまま使用することが出来る利点を持つが、標識される細胞は電極の当て方に影響されるため実験結果のばらつきが生じてしまうという難点があった。具体的にはINは内側基底核隆起(MGE)の他に尾側基底核隆起(CGE)からも生み出されるため、これらの部位に由来するINも混在する可能性がある。そしてこの二つの異なる部位に由来する神経細胞は発現する分子が異なることが解っており、振る舞いも異なる可能性が考えられる。したがって、両者を区別して解析することが望まれる。 最近になってこの問題の解決に有用な遺伝子改変マウスが入手可能となったため、その導入を進めた。このマウスは転写因子nkx2.1の下流にcre recombinaseを発現するマウスである。nkx2.1はMGEには発現するがCGEには発現しない。また、そこでこのマウスにcre recombinaseの働きによって遺伝子組換えがおこり、蛍光遺伝子が発現するコンストラクトであるpCALNL5-Egfpを電気穿孔することで、nkx2.1の下流、すなわちMGE由来のINのみを選択的に可視化することが可能となる。さらにCGE由来のIN選択的にGFPを発現するマウスも入手可能となった。これはserotonin 3A受容体がこれらの細胞に特異的に発現していることを利用したものであり、このマウスに赤色蛍光遺伝子を電気穿孔法で導入し、2重標識される細胞と赤色蛍光を発する細胞を追うことで、CGE由来の細胞とMGE由来の細胞とを区別して解析することが出来る。この解析にはより多くの時間と労力を必要とするが、得られるであろう結果はより精度の高いものとなるものと期待されるため、今後はこれらの遺伝子改変マウスを用いた研究をも行っていく予定である。
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