研究課題/領域番号 |
22220005
|
研究機関 | 公益財団法人大阪バイオサイエンス研究所 |
研究代表者 |
中西 重忠 公益財団法人大阪バイオサイエンス研究所, システムズ生物学部門, 所長 (20089105)
|
研究分担者 |
船曳 和雄 公益財団法人大阪バイオサイエンス研究所, システムズ生物学部門, 研究副部長 (00301234)
岡澤 慎 公益財団法人大阪バイオサイエンス研究所, システムズ生物学部門, 研究員 (40414130)
|
研究期間 (年度) |
2010-05-31 – 2015-03-31
|
キーワード | 小脳 / 運動記憶 / 神経回路 / 神経成熟 / 細胞内シグナル / マスター転写遺伝子 / 運動制御 / 蛋白燐酸化 |
研究概要 |
本研究の研究目的は、脳情報が神経回路網においてどのように処理、統合されているのかまた発達期の活動依存的な神経回路の成熟化がどのような機構で制御されているかを明らかにすることである。我々は特定の神経回路の伝達を可逆的、特異的に遮断する可逆的神経伝達阻止法(RNB法)を開発し、本方法によって小脳顆粒細胞からプルキンエ細胞への伝達を遮断できるモデルマウスを作成する事に成功した。この結果、小脳記憶の視運動性眼球反射(OKR記憶)の誘導にはプルキンエ細胞への伝達が必須であるが、一旦誘導された記憶情報は前庭核で保持されプルキンエ細胞への入力がなくとも視運動性刺激によって OKR記憶が誘導され、小脳記憶の条件付瞬目反射とは記憶の素過程が異なることを明らかにした。一方小脳顆粒細胞の成熟化は成熟遺伝子の誘導と未成熟遺伝子の抑制がグルタミン酸受容体、Na+チャンネル、Ca2+チャンネル、細胞内Ca2+シグナル系の一連の活動依存的な細胞内シグナル系の活性化とこのシグナル系の活性化によってEtv1転写制御因子がマスター制御因子として作用し、統合的に成熟遺伝子の誘導と未成熟遺伝子を抑制するという新事実を明らかにした。さらにRNB法を適用し、運動制御にかかわる大脳基底核の直接路と間接路の両者が急性期の運動亢進にかかわるが、長期にわたる運動亢進にはそれぞれの経路が独自に制御している事を明らかにした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の研究目的である 1.小脳運動記憶の機構の研究 2.小脳神経回路形成の成熟機構の研究は独自の新事実を明らかにすることに成功している。従って現在の脳研究の中心的な課題の記憶、学習、運動における脳情報の処理と統合の機構及び機能的神経回路の形成機構に関して基盤となる機構を提示することができ、目標に向けて研究が順調に進展しておりこれらの研究成果の上に今後研究は更に展開できるものと考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
1. 小脳運動記憶の機構 条件付け瞬目反射及びOKR運動記憶において共に小脳顆粒細胞からプルキンエ細胞への刺激情報が必要であることを明らかにしている。従ってOKRモデルマウスを用いていかなるプルキンエ細胞への入力情報が必要であるのか伝達遮断時に条件付けと共にoptogenetic法或いは電気刺激によって刺激頻度、或いは時間軸をかえた刺激をプルキンエ細胞に与え、プルキンエ細胞の情報処理の機構を明らかにする。さらに小脳運動記憶の誘導に小脳中位核(瞬目反射)及び前庭核 (OKR)の細胞において、いかなる可塑的変化が起こるのかをin vivo顕微内視鏡を用いて明らかにする。 2. 小脳神経回路形成の成熟機構 未成熟な顆粒細胞は脱分極を示し、脱分極による持続的な Ca2+上昇がカルシニューリン、フォスファターゼを活性化し、増殖、分化を制御する未成熟遺伝子を誘導する。これに対し非脱分極化はグルタミン酸シグナル系を介して oscillatoryなCa2+上昇を引き起こしCaMKIIを活性化し、成熟遺伝子を誘導する。Ca2+動態による両酵素系の制御の違いを分子生物学、生化学等の手法を用いて明らかにする。Etv1は成熟遺伝子の誘導と未成熟遺伝子の抑制を共に制御するが、Etv1転写因子コンプレックスの実体を明らかにする。さらにCaMKIIの活性化、局在のイメージング解析等を進め、CaMKII-Etv1のシグナル系の詳細を明らかにする。 3. 協調運動の制御機構 大脳基底核は小脳と密接な情報の連結がある。従って RNB法を用いて大脳基底核の2つの経路、即ち直接路、間接路の伝達を別個に遮断し、大脳基底核ー小脳神経回路のマクロなレベルでの運動制御の機構の解析を進める。
|