研究課題/領域番号 |
22220006
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研究機関 | 生理学研究所 |
研究代表者 |
伊佐 正 生理学研究所, 発達生理学研究系, 教授 (20212805)
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研究分担者 |
吉田 正俊 生理学研究所, 発達生理学研究系, 助教 (30370133)
加藤 利佳子 生理学研究所, 発達生理学研究系, 特別協力研究員 (20425424)
笠井 昌俊 生理学研究所, 発達生理学研究系, 特別協力研究員 (70625269)
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研究期間 (年度) |
2010-05-31 – 2015-03-31
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キーワード | サリエンシー / 上丘 / 盲視 / 側方抑制 / PET / 2光子顕微鏡 / 霊長類 / マウス |
研究概要 |
(1)PETによる盲視モデルサルにおける視覚誘導性サッケードに関与する脳部位の特定:2頭の片側盲視サルを用い、障害視野に提示された指標に対する視覚誘導性サッケード課題時の脳活動の記録をPETによって行った。その結果、損傷前は、広範囲の視覚関連領域(V1、V2、V3、V4、STP)および前頭眼野(FEF)においてサッケード関連活動が見られた。V1損傷後には、損傷側では、V3とMSTの一部を除きサッケードに関連した活動が低下したのに対し、上丘では関連して活動の増加が見られた。この結果は、損傷後両側LIPの重要度が増したことを示唆する。そこで、LIPにムシモルの微量注入実験を行った。結果、盲視ザルの損傷側上丘及び両側LIPの活動抑制により、障害視野へのサッケードが障害された。 (2)2光子レーザー顕微鏡によるマウス上丘における側方抑制の解析:上丘層内水平結合が作る中心興奮・周辺抑制の効果は、サリエントな刺激検出に関わる神経回路の基盤になると考えられる。そこで、2光子顕微鏡による in vivo カルシウムイメージングをマウスの上丘に適応した実験系を立ち上げ、上丘浅層の視覚応答の記録に成功した。そして光点のサイズを大きくするとより広い範囲の細胞集団の活動が上昇する一方、刺激の中心に受容野を持つ細胞の活動の減弱が確認された。これは“周辺抑制”現象を示している。 (3)サリエンシー検出回路モデルの構築:Itti博士のサリエンシー計算論モデルをもとにして、上丘への微小電気刺激によってサリエンシーの情報処理に影響を与えるシミュレーションを行った。微小電気刺激は刺激部位には興奮を、それを取り巻く領域には抑制を引き起こす。そして今回、複数の電極からの微小電気刺激によって上丘の視覚マップに引き起こされる活動パターンをモデル化し、上丘の活動パターンとしてサリエンシーマップを再構成できることに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
イメージング手法をfMRIからPETに変更するなど、いくつか研究方針の軌道修正を迫られたが、変更した結果、盲視におけるサッケード運動関連領域について順調にデータを得ることができた。さらに現在盲視における連合学習という大変興味深い切り口でのデータが得られてきている。 一方、2光子レーザー顕微鏡をいきなりマウス個体において上丘のような深部の構造に適用するのは困難と考え、スライス標本での2光子レーザー顕微鏡によるニューロン集団の活動の解析を行う予定でいたが、予想以上に、マウス個体での実験が進展したため、個体での実験に注力することにした。現在、上丘での2光子イメージングに成功しているのは世界でも我々の研究室のみであると考えられる。そして、さらに視覚刺激の直径を大きくする方法と2つの視覚刺激を同時に与えることで側方抑制を観察することに成功した、このような視覚機能に関与する局所回路での抑制機構に関する研究は、2光子イメージングによる解析がより進んでいる視覚野においてもまだあまり進んでおらず、予想以上に進展していると言ってよい。 また、神経回路モデルに関する研究も注意を補綴する技術開発というユニークな切り口で進めることによって、サリエントな刺激を検出して、上丘に電気刺激を加えて、注意の補綴を行えるということを示すことで「サリエンシー検出機構の全貌」に迫ることができることができている。本研究については残り2年間で、実際にBig dataとしてデータ取得したfree viewing時の眼球運動をどれくらい再現できるかという大変興味深い成果が挙げられると期待している。
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今後の研究の推進方策 |
今後、盲視における視覚運動変換系については、PETで視覚誘導性サッケード関連活動が観察された部位、特に視床枕、頭頂連合野LIP野や前頭眼野や背外側前頭前野などから単一ニューロン活動記録を行うとともに、ムシモル注入を行い、その関与を明確にしていく。さらに、最近、代表申請者の研究室で開発された、ウィルスベクター2重感染法による経路選択的・可逆的伝達阻害法を想定される経路に適用し、「盲視の経路」を特定したい。さらに盲視野に提示された手がかり刺激に基づく連合学習については、古典的条件付け課題、眼球探索運動によるオペラント条件付け課題について、2頭の片側盲視ザルを用いて学習が成立するという行動データが得られつつある。今後、これらの課題遂行中の黒質緻密部のドーパミン細胞からの発火活動の記録を行う予定である。我々の仮説に従えば、手がかり刺激定時直後に短潜時の発火応答がこれらドーパミン細胞から記録できるはずで、その場合、そのドーパミン細胞への視覚入力は上丘から伝達されるはずであり、次のステップとして、ウィルスベクターによる経路遮断法を上丘―黒質経路に適用し、その経路を遮断した時に学習が影響を受けるかどうかを調べることで、上丘―黒質経路の関与を明確に示せるはずである。 上丘局所回路におけるサリエンシー検出機構については、麻酔下マウスにおける2光子レーザー顕微鏡によるイメージング研究を一層推進する。そして、GABAニューロンがGFP蛍光によって同定できるGAD67-GFPノックインマウスを用いることで、どのようなGABA作動性抑制によって周辺抑制が伝播されるかを明らかにする。 神経回路モデル研究については、上丘内の局所相互作用などのモデル化において本研究課題でのin vitro実験からの知見などを取り込むことで、本研究課題の総まとめ的なモデルとしての役割を果たすことが期待できる。
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