研究課題/領域番号 |
22220008
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
生田 幸士 東京大学, 先端科学技術研究センター, 教授 (90212745)
|
キーワード | 医用マイクロ・ナノマシン |
研究概要 |
我々は、工学分野から、再生医療へ貢献することを目指し、独自に開発してきた3次元ナノ加工プロセス、マイクロアクチュエータ、微小力センシング、ナノ機能材料等の要素技術を統合し、細胞に生化学的および機械的刺激をピンポイントで与え、分化誘導を制御することのできる再生医療用プラットフォームの開発を進めている。 我々が細胞の足場材料として、独自に発見した「ナノメッシュカプセル」は、①表面が微細な多孔質で覆われていること、②中空構造であること、③生分解性であること、という特徴を持つ。従来、足場材料として用いられてきたナノファイバーと比して、連続的な繊維ではなく粒子であるため、微細な3次元パターニングができる。また、ナノファイバーと異なり、球状の中空構造を持つため、高い空孔度を持った厚みのあるスキャフォールドが作製できる。本年度は、微細加工した導電性鋳型を対電極とすることで、立体スキャフォールドの作製を実証した。さらに、予めポリマー溶液に薬剤を混合することで、薬剤徐放性ナノメッシュカプセルの生成にも成功した。 また、プラットフォーム内で細胞を操作するため、共焦点顕微鏡と光トラップ光学系を干渉せずに統合した新光学系を考案した。顕微鏡の対物レンズを動かす代わりに、共役位置においたレンズペアを駆動して、共焦点3次元像を取得する。光トラップによって駆動する細胞操作ナノロボットを3次元空間で自由に操作しながら、ロボット及び細胞の位置や変形を、任意の方向から、リアルタイムで3次元操作・観察・録画できるハードウェア及び専用ソフトウェアを開発した.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、工学分野から、再生医療へ貢献することを目指し、独自に開発してきた3次元ナノ加工プロセス、マイクロアクチュエータ、微小力センシング、ナノ機能材料等の要素技術をシステム化し、細胞に生化学的および機械的刺激をピンポイントで与え、分化誘導を制御することのできる再生医療用プラットフォームを開発することを目指している。要素技術は多岐にわたるが、独自のナノメッシュカプセルを用いた3次元スキャフォールドや、リアルタイムで3次元観察と操作ができる細胞操作ナノロボットシステムなど、着実に成果を挙げている。 また、ユーザーである再生医療研究者側のニーズにより、当初計画にはなかった胚葉体形成用プラットフォームの開発を追加し、既にプロトタイプ装置を完成させ、分化誘導への応用研究に進んでいる。新項目の開発を優先したことに伴い、当初計画の3次元組織再生用プラットフォームの完成には、若干の遅れが見られるが、プラットフォームの主要モジュールは共通であるため、今後、計画期間内に完成できる見通しが立っている。また、本提案のプラットフォームを、再生医療分野での基盤技術として市場に展開していくため、特許を取得し、企業との共同研究により、低コストで生産できる新素材・新プロセスの開発を進めている点も高く評価できる。
|
今後の研究の推進方策 |
次年度は、前期に「細胞操作ナノロボットシステムとマイクロ流路ネットワークの統合」、「膜マイクロ流路ネットワークと培養チャンバーユニットの統合」及び「全階層統合、プラットフォームの一体化」を進め、プラットフォームを完成させる。これにより、プラットフォーム内で、3次元組織培養と分化誘導が可能になる。後期は、プラットフォーム内で幹細胞を増殖させた後、流路からの液性因子及びナノロボットによる機械刺激による肝への分化誘導を実証する。並行して、プラットフォーム内で、膜流路及びナノファイバースキャフォールドを用いた3次元組織構築を行う。 次年度以降は、プラットフォーム内で、厚み1mm程度の3次元培養組織のネクローシスが起きないことを実証した後、3次元組織の局所的分化誘導を行い、血管網を有する肝組織を得る。さらに、再生した組織体をCCl4肝障害モデルマウス皮下に移植し、マウス血管系と組織体の血管網をマイクロサージェリにより接続して、肝機能の向上を評価する。また、胚葉体形成用プラットフォームを用いて、複数の液性因子刺激による分化誘導のコンビナトリアル解析を行い、再生医療研究での有効性を実証する。
|