研究課題/領域番号 |
22220008
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
生田 幸士 東京大学, 先端科学技術研究センター, 教授 (90212745)
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研究期間 (年度) |
2010-05-31 – 2015-03-31
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キーワード | 医用マイクロ・ナノマシン |
研究概要 |
再生医療が臨床で役立つものとなるには,細胞レベルではなく,組織・臓器レベルの再生技術の開発が必要不可欠である.我々は,独自に開発してきた3次元ナノ加工プロセス,マイクロアクチュエータ等の要素技術を応用し,再生医療用プラットフォームを開発することを目的としている. 本年度は,幹細胞培養・分化誘導プロトコールの中で最も煩雑な工程の一つである,胚様体形成を効率化することを優先し,胚様体形成に特化したプラットフォームの開発を進めた.幹細胞の分化誘導では,3 次元細胞凝集塊である胚様体を作製し,細胞間相互作用により分化を促進させる.胚様体の作製手法としては,浮遊培養法,ハンギングドロップ法などが知られているが,胚様体の作製,分化誘導,解析,回収の全ての工程をシームレスに行う装置は存在せず,分化誘導や組織形成を高効率・低コストで行うことを困難にしていた. 我々が開発したプラットフォームは,手の平サイズの自動培養装置で,大量の胚様体の形成,分化誘導,観察が可能である.また,均一なサイズの胚様体を,多数一括形成した後,複数の系列に分化誘導することが可能であり,さらに,大量に形成・分化誘導された胚様体から,個々の胚様体を選択的に回収する機能を持つ.細胞培養部分は、PDMS製の柔軟な薄膜と空気圧駆動ラインから成る.PDMS薄膜の上部には流路が取り付けられている.空気圧伝達ラインには正方形の開放部を備えており,負圧を印加することで上部のPDMS薄膜が開放部に沿って凹み,胚様体を培養するためのマイクロウェルを形成する.空気圧駆動ラインと送液ラインは垂直に配置されているため,アレイ上の任意の胚様体を選択的に回収することができる.各々10本の圧力駆動ライン,及びマイクロ流路からなる合計100個の培養用マイクロウェルを備えたプロトタイプを作製し,ヒトiPS細胞を用いて胚様体形成を実証した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,多くの要素技術を開発してきており,いずれも独創性が高く,またそれによる新発見も生まれている.主なもの下に示す. 【細胞操作ナノロボットシステム】 3次元の共焦点像をリアルタイムに構築し,任意視点で観察・記録することができると同時に,操作者が力フィードバック付コントローラを用いて,ナノロボットを3次元空間内で自由に操作できる,世界初のシステムである.単に本研究での利用にとどまらず,水中で微小物体を立体的に観察し,力を感じながら操作や組立をするニーズがある分野一般に,広く応用できる. 【アクチンの自己組織化】細胞操作ナノロボットを用いて,細胞抽出物懸濁液内の50nm程度の局所空間に伸展刺激を加えると,液中のアクチンが刺激部位に集合することを発見した.機械刺激に対する細胞の反応を制御する仕組みとして,メカノレセプターなどが知られているが,それ以外にも,アクチンの分子レベルでの自己組織化メカニズムが働いている可能性が示唆され,学術的に興味深い知見である. 【ナノファイバースキャフォールド】相分離支援エレクトロスプレーによる生成するナノメッシュカプセルは,カプセルとナノファイバーの特性を兼ね備えた新素材であり,かつ立体的パターニング手法を開発したことにより,本研究の再生医療用足場のみならず,DDSデバイスやフィルターなど、他分野への応用展開も見込まれる. このように,本研究課題は着実に要素技術の開発を進めてきており,今後のシステム化に向けて,順調に進展している.
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今後の研究の推進方策 |
今後,早期に,細胞操作ナノロボットシステムとマイクロ流路ネットワークの統合と,膜マイクロ流路ネットワークと培養チャンバーユニットの統合を行い,プラットフォームの一体化を目指す.これにより,プラットフォーム内で3次元組織培養と分化誘導が可能になる.その後,プラットフォーム内で幹細胞を増殖させ,流路からの液性因子及びナノロボットによる機械刺激による分化誘導技術を開発する.
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