研究課題/領域番号 |
22220009
|
研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
伊藤 嘉浩 独立行政法人理化学研究所, 伊藤ナノ医工学研究室, 主任研究員 (40192497)
|
研究分担者 |
北嶋 隆 独立行政法人理化学研究所, 伊藤ナノ医工学研究室, 協力研究員 (40399556)
鵜澤 尊規 独立行政法人理化学研究所, 伊藤ナノ医工学研究室, 研究員 (60554376)
吉田 靖弘 岡山大学, 医歯(薬)学総合研究科, 准教授 (90281162)
松川 昭博 岡山大学, 医歯(薬)学総合研究科, 教授 (90264283)
|
研究期間 (年度) |
2010-05-31 – 2015-03-31
|
キーワード | 進化分子工学 / 試験管内進化法 / 成長因子 / 固定化 / 融合タンパク質 / バイオマテリアル |
研究概要 |
成長因子を固定化することで、細胞の成長や分化のような高次の細胞機能を制御できる新しいバイオマテリアルが生み出すことができることを明らかにしてきた。本研究では、進化分子工学の手法を用いて新しい結合性成長因子を調製し、医用材料としての展開を図る。第一には、無細胞翻訳系を用いるディスプレイ法を用いたペプチド進化分子工学法の確立。第二には、結合性成長因子の創成と医療応用である。 第一については、非天然アミノ酸を用いるミスアシル化tRNA法の方法とリボソーム・ディスプレイ法の融合による化学拡張進化分子工学法の開発。非天然アミノ酸として非天然アミノ酸としてサイクリン依存性キナーゼ(CDK)阻害剤であるPurvalanolを導入し、ペプチドアプタマーがアシストして阻害剤の活性や選択性を高めることに成功した。アプタマー・アシスト阻害剤の設計による新しい創薬概念を構築した。 第二については、調製したコラーゲン結合性成長因子(骨形成タンパク質BMP)の動物実験による評価を行った。3次元のコラーゲンー生分解性高分子複合スキャホールドに結合させ、ヒト骨髄由来間葉系幹細胞の骨誘導能を調べたところ顕著な効果が観察され、生体内埋め込み実験で、骨由来遺伝子の発現、カルシウム沈着などのバイオミネラリゼーションが観察され、結合性BMPの有効性が明らかとなった。さらに、スキャホールドなしに直接動物(マウス)に結合性成長因子を注射した場合も損傷部位に2週間以上とどまることが明らかになった(通常のBMPは3日後には消失)。さらに、頭がい骨を欠損させた上に投与した場合に、結合性BMPは、スキャホールドなしでも高い骨誘導能を示した。損傷部位表面に露出したコラーゲンに結合して活性を発現できたものと考察された。これは、結合性ドメインがターゲッティング素子としても活用できることを初めて示した例となった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
新しい結合性成長因子の創成を中心の検討を行い、医療応用評価は予定通り進捗しており、期待通りの有効性が観察されている。当初の目的の「成長因子固定化材料」概念の一般化に成功している。さらに、進化分子工学の化学拡張手法については、当初の計画通りに進行するとともに、その展開として期間中に計画以上の成果が見込まれるようになった。すなわち、幅広く非天然アミノ酸が導入できるシステムが構築できるようになり、新たな可能性が見出されるようになってきた。 第一には、新しい原理の蛍光発生アプタマーの創成が可能になった。カルモデュリンを標的として、コンホメーション変化を感知して蛍光を発生するアプタマーの創成に成功した。アプタマーは抗体のように任意の標的に対して得ることができ、診断医療への応用価値は非常に高い。また、基礎科学分野でも、これまでの免疫アッセイ系に革命を起こす可能性がある。従来「抗体」は結合するだけだったため、結合処理の後、結合しなかったものの分離処理が必要で、洗浄やクロマトグラフィによる分離が行われてきたが、本研究で確立したような方法では、結合を同時に蛍光発生が起こり、結合・非結合体の分離が不要になる。 第二には、強力で選択的な阻害剤アプタマーの創成が可能となった。これは、阻害剤単独の酵素阻害活性を、アプタマーとの相互作用を追加することで増強できるとともに、選択性が低い場合も、アプタマーによって相互作用箇所を増やすことにより、希望するターゲットだけへの選択性を向上させることができる。新しい創薬原理の導出につながりつつある。同様な原理で、ドラッグ・デリバリーにおける高選択的ターゲッティング、精密バイオ触媒創成の可能性も生まれてきており、化学拡張進化分子工学が、バイオ直交進化分子工学(Bioorthogonal Evolution)として今後も展開できることが明らかになってきた。
|
今後の研究の推進方策 |
進化分子工学の化学拡張が確立できたことにより多くの可能性があらわれてきたため、当初計画した結合性成長因子の創成にとどまらず、以下の研究項目を追加して今後の展開へ向けた可能性を追求する。 ①進化分子工学によるセンシング・アプタマーの創出とその応用。非天然アミノ酸として蛍光基を導入してアプタマー選別を行うことにより、診断用のアプタマーが創出できるようにする。インフルエンザ、べろ毒素など診断できる医薬への応用開発の端緒とする。 ②光スイッチングアプタマーの創出とその応用。非天然アミノ酸としてアゾベンゼンやスピロピランを選び、プロテインAをターゲットとするペプチド・アプタマーを選別する。得られたペプチド配列を、精製したいタンパク質に導入し、光照射により、無細胞翻訳系で生産したタンパク質を精製できるシステムを構築する。 ③選択的強力アプタマー・アシスト阻害剤の開発と応用。非天然アミノ酸として既知の阻害剤を用い、ターゲットを酵素として、特定の酵素を選択的に阻害できる選択的阻害剤を創成する。 ④選択的薬剤デリバリー担体の開発と応用と高選択性ペプチド触媒の創成原理の確立。非天然アミノ酸としてムスカリン性アセチルコリンを用い、選択的Gプロテイン関連レセプター指向性アプタマーを創成し、ドラッグ・デリバリーへの応用を検討する。mRNAディスプレイ法を用いて化学反応を触媒するペプチド触媒を探索する。一方の基質はランダム配列ペプチド・ライブラリー内にミスアシル化tRNAを無細胞翻訳系に添加することで調製し、他方はビオチン化する。両者を混合・反応させた後、自己触媒作用で縮合してビオチン化されたペプチドをアビジン・ビーズで釣上げる。反応時は有機溶媒も使用できるようにする。
|