1)TGF-βによって誘導されるEMTに関する研究を行った。これまで我々は転写因子TTF-1がTGF-βシグナルに拮抗し、肺腺がんにおいてEMTを抑制することを明らかにしていた。さらに我々はTTF-1がTGF-β2の発現を抑制することを明らかにしていたが、もう一つのメカニズムとしてTTF-1がSmad3に結合してDNAへの結合を抑え、Smad3の転写活性を抑えることを明らかにした。 2)TGF-βと協調して肺腺がん細胞にEMTを誘導する因子を探索した。その結果、TNF-αがTGF-βと協調してA549細胞にEMTを誘導することが明らかとなった。一方、FGFは単独ではEMTを誘導しないがTGF-βと共存すると正常の上皮細胞にEMTを強く誘導し、活性型の線維芽細胞へと分化させることが明らかとなった。TGF-βとFGFによってEMTを起こした上皮細胞は乳がん細胞に作用して浸潤能を強く促進することが明らかとなった。 3)スキルス胃がんモデルを用いて血管新生機構の研究を行った。我々はすでにOCUM-2MLN細胞でTGF-βシグナルを遮断すると血管新生が亢進してin vivoでの腫瘍形成能が亢進することを明らかにしていた。またその責任分子としてThrobospondin-1を同定していた。今回、我々はTIMP-2がスキルス胃がん細胞ではTGF-β依存的に誘導されること、TIMP-2の発現を人為的に上昇させると腫瘍組織における血管の密度に大きな差異は見られないが、組織における低酸素状態が強く見られることを明らかにした。 4)BMPのがん微小環境に関する研究を行った。BMP-9は血管内皮細胞の増殖をin vitro、in vivoの両方で促進した。しかし、BMP-9の内皮細胞増殖はin vivoではpericyteの増殖を伴っていないことが考えられ、腫瘍の増殖はむしろ抑制されることが明らかとなった。
|