研究課題/領域番号 |
22221001
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
若土 正曉 北海道大学, -, 名誉教授 (60002101)
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研究分担者 |
三寺 史夫 北海道大学, 低温科学研究所, 教授 (20360943)
江淵 直人 北海道大学, 低温科学研究所, 教授 (10203655)
中村 知裕 北海道大学, 低温科学研究所, 講師 (60400008)
西岡 純 北海道大学, 低温科学研究所, 准教授 (90371533)
渡辺 豊 北海道大学, 地球環境科学研究科(研究院), 准教授 (90333640)
鈴木 光次 北海道大学, 地球環境科学研究科(研究院), 准教授 (40283452)
小埜 恒夫 独立行政法人水産総合研究センター, 北海道区水産研究所, 室長 (40371786)
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キーワード | 熱塩循環 / 物質循環 / オホーツク海 / 北太平洋亜寒帯循環 |
研究概要 |
北太平洋の熱塩循環にとって起点となるオホーツク海北西陸棚域への高塩水供給を見積もるために、ロシア極東海洋気象研究所所属のゴルディエンコ号を用いて、オホーツク海南東部と東カムチャツカ海流域の海洋観測をH23年7月25日-8月22日に実施した。対象海域において流速、水温・塩分、栄養塩を海面高度計衛星の軌道に沿って測定した。これらを用いて観測時の海面高度場を求めそれを基準に表層100mの流量を推定したところ、年平均で約1.0Sv、冬季には約1.6Svが高密度水形成域に向かって流れていることが分かった。 また、この航海では物質循環に関わる栄養塩と海峡部における潮汐混合の把握に関するデータを取得した。得られたデータを過去の航海で得られた北太平洋の広範囲の鉄や栄養塩のデータと統合し、解析を実施した結果、オホーツク海大陸棚から中層循環(300m付近)によって移送されてきた鉄が、千島海峡の潮汐混合によって主要栄養塩と混合されて高い鉄濃度:栄養塩比の水塊を形成し、通常の外洋域の3オーダー大きなフラックスで北太平洋表層へ供給されていることが明らかとなった。 以上に加え、ロシア極東海洋気象研究所が管理する、ベーリング海の海洋観測データを重点的に解析した。西ベーリング海は大部分がロシア排他的経済水域であり、このロシアデータセットにより量の未公表データの解析が可能となった。その結果、西ベーリング海は50年間に約0.1PSUの割合で低塩化が起こっていること、また振幅が0.1PSU程度の塩分の10年規模変動があることが明らかとなった。また、オホーツク海東部のロシアデータも合わせて解析したところ、この塩分変動はオホーツク海東部の変動に1~2年程度先行し、さらに熱塩循環の起点となる北西陸棚域の高密度水の塩分には3~4年先行していることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
外国人の計画する観測に対してロシア政府の対応が年々厳しくなっており、当初計画していたフロートおよび係留観測が許可されなかった。そのため流速係留観測の代替として、ロシア船ゴルディエンコ号による物質循環系の生物・化学パラメータ取得のための観測と抱き合わせて、船上での音響ドップラープロファイラ-(ADCP)による直接観測を実施し、衛星海面高度、CTD観測と合成することで、オホーツク海東部において欠落していた海流情報の解析が可能な物理パラメータを取得する計画に変更した。このロシア船によるオホーツク海観測は順調に完了し、予定していた物質循環の観測に加えて、物理データも予定通り取得する事が出来た。取得したデータは先ずロシア政府に提出しなければならず、解析許可を得るためのほぼ一年間を費やしたものの、このデータを用いてオホーツク海東部の流量を算出したところ、年平均で約1.0Sv、冬季には約1.6Svの北向き流量を見出した。同時に進めている数値シミュレーションから得られる海流像に、この結果は合致する。このようにデータ空白域であったオホーツク東部海域での流用算出は順調に進んでいる。 物質循環および鉄の北太平洋規模での循環像の解明も進んでいる。ゴルディエンコ号の海洋観測データにこれまでの観測で得たデータを含めて解析したところ、海峡部で高い鉄:栄養塩比の水塊ができ、その比は西部亜寒帯循環を進むにつれて次第に減少しており、オホーツク海が鉄のソースであることが明らかとなった。これより、従来注目されていた大気経由ダストの鉄供給よりもオホーツク海北部の大陸棚起源の鉄供給システムが重要であることが分かり、生物生産に関わる北太平洋の鉄循環像が大きく変わったことは特筆すべきである。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で熱塩循環に対するオホーツク海東部からの塩分供給が明らかとなった。この結果を基盤に、まずロシアデータセットを用いて熱塩循環の起点となるオホーツク海北西陸棚域での塩分の長期時系列を検討し、海氷生成の効果、淡水の効果、北太平洋からの流入水の効果をそれぞれ定量的に評価する。特にH23年度の観測で取得したLADCP、CTDの解析をさらに進め、衛星による海面高度、高解像度数値モデルを組み合わせることにより、オホーツク海東部の熱塩流量を求める。また、北太平洋スケールの変動に対する高密度水の応答を考えるために、ロシア海洋データセットの解析を北太平洋の範囲に広げて継続し、塩分経路を同定する。 以上に加え、高解像度北太平洋モデルによる数値実験を行うことで、海面塩濃度が降水、河川、風応力など海洋表層に印加される強制力にいかに応答するかを評価する。予備的実験では、ベーリング海からオホーツク北西陸棚域に至る高塩水経路が示すことができており、現場観測、データ解析から得られる結果と統合して、オホーツク海と北太平洋亜寒帯循環をつなぐ熱塩循環像の解明を進める。 また、これまでに実施したゴルディエンコ号航海および今後実施する航海で得る予定の栄養物質と乱流混合パラメータのデータを用いて、千島海峡部全域で生物が利用できる海洋表層に持ち上げられる物質フラックスの平均的な値を見積もる。また、千島列島近傍で得たデータから乱流遷移過程の解析を進める。
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