研究課題/領域番号 |
22221001
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
若土 正曉 北海道大学, その他部局等, 名誉教授 (60002101)
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研究分担者 |
三寺 史夫 北海道大学, 低温科学研究所, 教授 (20360943)
江淵 直人 北海道大学, 低温科学研究所, 教授 (10203655)
中村 知裕 北海道大学, 低温科学研究所, 講師 (60400008)
西岡 純 北海道大学, 低温科学研究所, 准教授 (90371533)
渡辺 豊 北海道大学, 地球環境科学研究科(研究院), 准教授 (90333640)
鈴木 光次 北海道大学, 地球環境科学研究科(研究院), 准教授 (40283452)
黒田 寛 独立行政法人水産総合研究センター, 北海道区水産研究所, 研究員 (30531107)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 熱塩循環 / オホーツク海 / 東カムチャツカ海流 / 物質循環 / 鉄 |
研究実績の概要 |
(1)データ解析によるオホーツク海熱塩循環プロセスの解明:熱塩循環において重要な東カムチャツカ海流からオホーツク海への流入プロセスを、ロシア極東海洋気象研究所と共同でオホーツク海沿岸の水位変動と衛星海面高度を解析することにより明らかにした。特に、風による東カムチャツカ海流の変動が重要であることが明らかとなった。また、衛星観測と合成してオホーツク海北西陸棚域における海氷生産量の年々変動を推定し、海洋観測と比較することにより、高密度水輸送減少と熱塩循環弱化の連関を明らかにした。 (2)千島列島周辺海域・親潮域の物質循環観測:ロシア水域の海洋観測を、ロシア極東海洋気象研究所と共同し実施した。東カムチャツカ海流に沿って、これまで全く観測のなかったカムチャツカ半島沖、および千島列島周辺海域に3本の観測ラインを設け、各水塊における鉄や栄養塩などの化学的特徴や植物プランクトン光合成生理パラメータの変化を追跡した。 (3)海氷生成域および北太平洋における熱塩/物質循環の数値実験:オホーツク海と北西北太平洋を含む海洋海氷モデルを用いて、オホーツク海中層循環弱化のプロセスを再現した。ロシアデータなどと比較することにより、海氷減少、降水量増加、風変動のそれぞれが中層温暖化に重要な役割を担っていることが明らかとなった。またこのモデルに鉄化学モデルを結合し、鉄化学-海洋循環結合モデル(鉄循環モデル)を作成することにより、溶存鉄と主要栄養塩(リン酸塩)分布の再現に成功した。高密度陸棚水や潮汐混合が溶存鉄分布の形成に重要であった。 (4)オホーツク海観測や日露共同研究などの成果をProgress in Oceanographyの特集号としてまとめているところである。順調に編集作業が進んでおり、最終的に21編の論文が掲載予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
最も大きな成果は、ロシア海域であるためこれまでデータが全く無かった東カムチャツカ沖や千島列島北部おいて、日露共同で大規模な海洋観測ができたということである。このことにより、ベーリング海からカムチャツカ海峡を通じて太平洋側に流出する水塊の生物量や栄養物質量などの特徴を捉えることがはじめて可能となり、西部北太平洋亜寒帯域の植物プランクトン動態、鉄を含む栄養物質、溶存有機物など北太平洋スケールの物質循環システム解明に大きく前進した。 北太平洋とオホーツク海をつなぐ熱塩循環プロセスの解明も着実に進んでいる。これまで重点的に行ってきた北太平洋からオホーツク海へと進行する塩分アノマリの長距離伝播とその物理過程の解明に加え、H25年度は海氷生産量や降水量変動の影響について調査が進展した。また、オホーツク海-北西太平洋の海氷海洋結合モデルを作成し数値実験を実施することによって、近年進行しているオホーツク海とその近傍海域の中層温暖化および熱塩循環弱化において、風、海氷生産および降水量がそれぞれ重要な役割を担っていることが判明した。並行して開発してきた鉄循環モデルも観測された鉄濃度分布をよく再現しており、熱塩循環/物質循環結合システムの解明に向けてデータ解析・数値モデルの両面でも重要な成果を得た。 以上のように、H25年度の研究により、オホーツク海と北太平洋亜寒帯域をつなぐ熱塩/物質循環システムの解明という本研究の当初目的はほぼ達成できたと考える。さらに、当初目標としたオホーツク海周辺の熱塩循環/物質循環システムの実態解明を超え、北太平全体のシステム解明に向けて大きく前進した。特筆すべきことは本研究が日露研究者の緊密な連携によって進められていることである。度重なる変更が生じたにもかかわらず日露双方において粘り強く問題を克服してきており、それが当初の目標以上の成果につながったことを付記する。
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今後の研究の推進方策 |
これまで観測とデータ解析を中心に、オホーツク海と北太平洋亜寒帯域をつなぐ熱塩/物質循環システムを明らかにしてきた。また、熱塩循環弱化・中層温暖化に対する物理的側面の理解は数値実験を行うことによって大きく前進した。以上の結果を踏まえ、これからは最終年度のとりまとめを目指し、物質循環の観測結果と現在開発している鉄循環モデルを用いて栄養塩や鉄の変動要因を明らかにする。また、オホーツク海から親潮域にかけて3km-7kmという非常に高解像度の海洋海氷結合モデルを開発中であり、それに鉄化学過程を組み込んで鉄循環モデルのさらなる高精度化を目指す。 東カムチャツカ沖や千島列島北部おける日露共同の海洋観測の結果を解析することによって、北太平洋の鉄循環、栄養塩循環の全体像を見出す。特に、生物生産と生物的CO2固定能力の大きい西部北太平洋亜寒帯域に、どのようなプロセスを経て栄養物質が運ばれているのかを、観測されたデータを基にして明らかにする。なお、この日露共同観測は、H26年度に繰越して実施した。 さらに、これまでに実施したロシア船航海の観測で得た栄養物質と乱流混合データを用いて千島海峡部全域で生物が利用できる物質フラックスを明らかにする。最終的にはこれらの情報を高解像度モデルに組み込むことにより、オホーツク海と北太平洋亜寒帯域をつなぐ熱塩/物質循環システムの解明を進める。
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